「心よりおわびし、深く反省しています」。全治2カ月の大けがを負った歌舞伎俳優市川海老蔵(33)が7日、退院し、都内で行った会見で計11回も頭を下げ、涙目で謝罪した。暴行事件が発生した11月25日未明から13日目、海老蔵は「殴られた時、逃げていた時、死ぬかと思った。(暴力は)一切していない」と主張。妻の小林麻央(28)から「生まれ変わって」と懇願されたことも明かした。世間を騒がせた責任を取り、来年1月の座頭公演「初春花形歌舞伎」は中止となり、来年の予定はすべて白紙にし歌舞伎界で初の無期限謹慎に入る。

 海老蔵の左目は真っ赤に充血していた。11月29日の顔の整復手術の痕はあまり感じられなかったが、表情は厳しく、約500人の取材陣を前に「多くの方にご迷惑をかけ、誠に申し訳ありません。心よりおわびします。深く反省しています」と涙目で謝罪した。最初のあいさつで壇上から下り、1分近く深々と一礼。1時間半の会見終了まで11回、頭を下げた。

 「初春花形歌舞伎」(東京・銀座のル・テアトル銀座)は「勧進帳」「蛇柳」など6演目中5演目に出演する奮闘公演で、事件の責任を取り歌舞伎公演として初の中止と無期限謹慎が決まった。劇場に穴をあけた場合は興行制作の松竹の損害は2億円以上と見込まれるが、代替の歌舞伎公演を検討。2月の名古屋・御園座公演は演目を一部替え、父市川団十郎中心の公演となる。そのほか、来年の海老蔵の予定はすべて白紙にし、復帰は事件の白黒の決着を待つことになる。

 松竹が厳しい処分を科した背景には世間を騒がせた点を重くみて、何かと言動で問題の多かった海老蔵に猛省を促し、現時点での損害には目をつむり、将来の歌舞伎界のリーダーとしての成長を期待した面がある。団十郎も心を鬼にして厳しい処分を求めたという。

 一方、海老蔵は警視庁の調べに、暴行現場となった西麻布の飲食店で逮捕状の出ている元サッカー選手の男(26)、男の仲間で元暴走族リーダーらと飲んだところ、リーダーが酔い、海老蔵は「介抱していたら、いきなり頭を蹴られた」と話した。店や男の関係者は「海老蔵が先に手を出した」「髪を引っ張り、灰皿に入ったテキーラを飲ませようとした」と証言。両者の主張が食い違った。

 会見で「酩酊(めいてい)し、記憶はあいまい」と言いながら、海老蔵は暴力をふるったことは「そのようなことは一切ありません」と強調。男やリーダーとは「面識がなく、初めて会った。怖いと思ったが、すぐに離れることはできなかった」。灰皿テキーラや髪を引っ張ったことや挑発的な言葉を発したことについては「そういうことはない」と否定。あらためて「被害者です」と主張したが、核心部分は「捜査があるので」と言葉を濁した。

 今回の事件で、過去の傍若無人の言動も取り上げられた。京都・南座「吉例顔見世興行」を休演し、出演したテレビCMも放送休止になるなど影響も大きかった。海老蔵は「舞台に立つ者として、ご迷惑をかけたことを反省しています。日ごろの自分のおごりが招いたことで、本当に申し訳ない」と反省を口にした。

 順風満帆で歌舞伎界のエリート街道を走ってきた海老蔵が初めて経験した逆風に「当然だと思います。(謹慎中は)人としてあるべき姿、きちんと生きることを前提に過ごしたい」。妻の麻央からは「生まれ変わらないといけません。人として心の勉強をして成長していきましょう」と言われたという。酒については「当分は控えます」。全治は当初6週間から2カ月に延び、入院で3キロ体重が減り、目に違和感があり、目に痛みやしびれもあるという。目のしびれに主治医は「いつとれるか分からない」。にらみを再びできるかは不明で、飲酒で大きな代償を払った。再生海老蔵のお披露目は未定である。

 [2010年12月8日9時20分

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