テレビドラマ「岸辺のアルバム」「父の詫び状」や映画、舞台など数多くの作品に出演し、人間味豊かな演技で知られた俳優の杉浦直樹(すぎうら・なおき)さんが21日午後7時23分、肺腺がんのため都内の自宅で亡くなった。79歳だった。葬儀・告別式は親族のみで執り行う。喪主は妻仁美(ひとみ)さん。杉浦さんは06年に脳梗塞のため舞台を降板し、療養していた。

 杉浦さんは06年9月に脳梗塞で倒れ、代表作「岸辺のアルバム」でも夫婦役を演じた八千草薫と共演する同年11月の舞台「黄昏」を降板した。その後は再起を目指してリハビリに努めていたが、今年7月中旬に体調を崩し、肺腺がんで余命2カ月と診断されて入院。放射線治療を受けたが、今月1日に「自宅に帰りたい」と退院。自宅で最期を迎えた。

 杉浦さんは独身を通してきたが、身辺の世話をするパートナーの女性はいた。脳梗塞で倒れた後は仁美さんが看病で付き添っており、その過程の中で、仁美さんと夫婦になったようだ。晩年は公の場に姿を見せず、昨年の親しい演出家の通夜も終わった後に参列したという。杉浦さんは長い間、都内のホテルを定宿とし、その池に好きなコイを飼っていた。倒れた後はホテルを引き払い、仁美さんと自宅で暮らしていた。

 日大芸術学部在学中に新演劇研究所の設立に参加し、57年に故石原裕次郎さん主演の日活「俺は待ってるぜ」で映画デビュー。翌年「錆びたナイフ」の悪役で注目された。その後、テレビに移り、山田太一さん脚本「岸辺のアルバム」、故向田邦子さん脚本「あ・うん」などテレビ史に残るドラマに出演。「岸辺-」で妻に不倫される夫を好演し、向田作品でドラマや舞台にもなった「父の詫び状」の父親役は再演を重ね、持ち役となった。

 舞台でもニール・サイモン「おかしな二人」など翻訳劇に取り組み、01年「こんにちは、母さん」も話題になった。主役から脇役まで幅広く演じられる実力派で、帯番組「おしゃれ」の司会を務めたり、育毛剤のCMにも出演。同年「あ・うん」で菊田一夫演劇賞を受賞し、06年に旭日小綬章を受章した。

 ドラマや舞台で夫婦役などで数多く共演した八千草はショックでコメントを出せなかった。事務所によると「共演予定の舞台を杉浦さんが降板してから、ずっと病状を心配していた。亡くなったことを知って、非常なショックを受けて、言葉にはならないようです」という。