作家村上春樹氏(64)が6日、京都市の京都大百周年記念ホールで「河合隼雄物語賞・学芸賞創設記念・公開インタビュー」に登壇した。村上さんが近年、国内の公の場で話をするのは極めてまれ。全国各地から訪れた500人のハルキストを前に、ユーモアたっぷりに、ライフスタイルについてや、4月12日に出版した長編小説「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」について語った。

 村上氏がグレーのジャケットにピンクのパンツ、青いスニーカー姿で登壇すると、集まったハルキストたちから大きな拍手が起こった。講演など公の場に登場するのは、極めて珍しく、定員500人に約1万人の応募があった。

 村上氏は、メディアなどに露出が少ない理由を「普通に電車に乗ったり、レコード屋に行ったりする普通の生活をしているので、声をかけられると困るんです」と説明。「絶滅危惧種のイリオモテヤマネコみたいなものだと思って、見かけても遠くから見ていてくれるとうれしいです」とユーモアたっぷりに話した。

 村上氏の作品にはたびたび、クラシックなどの音楽が登場する。村上氏は、早朝にレコードでクラシックを聞きながら小説を書いていることを明かし、「僕はリズム感を使って文章を書くんです」と、独特の執筆手法も披露した。

 先月発売されミリオンセラーとなっている長編小説「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」については、「長いタイトルですよね」と会場の笑いを誘った。同作については「短い小説のつもりで書き始めたが、登場人物に導かれるように話が膨らんでいった。こういうのは初めてだ。読者にも、それを感じてもらえたら良いなと思っています」と語った。そして、「小説を書くときは、それだけに打ち込んでいます。手抜きをしないことが僕の誇りです。もし、作品が合わなくても手抜きしてないんだって思っていただけるとうれしいです」とファンに呼び掛けた。

 また、ファンからの質問に答える場面では、野球についての質問も相次いだ。ボストン郊外で3年間暮らしたこともあり、「レッドソックスと、(ヤクルトファンなので)青木(宣親)選手のいるブルワーズを応援しています」と答えた。さらに、神宮球場のライトスタンドの常連客であることも明かした。大好きなスワローズの試合を観戦しながらビールを飲む時間が、村上氏にとって貴重な時間だという。【上岡豊、鈴木絢子】

 ◆「色彩を持たない多崎(たざき)つくると、彼の巡礼の年」

 「1Q84

 BOOK3」以来、3年ぶりに刊行された村上春樹さんの長編小説。心に傷を抱えた主人公が自らの過去と向き合う姿を描く。4月12日の刊行から1週間で発行部数が100万部に達した。