元首相、国会議員、社長、役員、医者、弁護士、キャスター…。社会的に地位を築いてきた男性150人が集い、オリジナルミュージカルを上演しようとしている。平均年齢57・2歳。日本をけん引してきた「すごい男たち」だが、踊りも歌も素人で昨年7月から稽古を開始。負傷と闘い、体にムチを打ちながら、来年1月14、15日の本番を目指している。

 既にわたせせいぞう氏が描いたビラが完成していた。会場は東京・渋谷のBunkamuraオーチャードホールで、1月14日の夜、15日の昼夜で計3公演が決定している。10月1日にチケット販売開始。もう逃げられる状況にはない。

 「やる限りはちゃんとしたものを」。その思いを胸に、素人の男たちが、1年半がかりで稽古を重ねている。出演者リストを見ると、鳩山由紀夫元首相、宮内義彦オリックス・シニアチェアマン、服部真二セイコーホールディングス会長、ケント・ギルバート…。他にも国会議員、大企業の社長、医師、キャスターらが名を連ねる。その1人、元日本テレビの小倉淳フリーアナウンサーは「総勢150人。『先生』と呼ばれて振り向く人が6割、『社長』で7割です」と特異なメンバー構成を説明した。

 きっかけは作曲家三枝成彰氏のひと言だった。

 「今度はミュージカルやるよ」

 実は全メンバーは三枝氏が主宰する「六本木男声合唱団倶楽部」に属し、00年から公演を重ねていた。ステージに立つ喜びを知ったメンバーに放った鶴の一声で、昨年7月から稽古がスタート。週1回ペースだったが、今年4月から週3回になり、土日は1日8時間を費やし、歌とダンスに真剣に取り組んでいるという。

 演じるのは名作「ウエスト・サイドストーリー」ならぬ「ウェスト・サイズ・ストーリー」。ニューヨークの介護施設で、ギャング団元メンバーたちが2つのグループを再結成し、抗争する物語だが、演者の大半が、ウエストのサイズが気になる中高年という事情も、題名に込められている。

 稽古によってウエストのサイズは縮まると思いきや、汗をかいた後の飲食でそうでもないとか…。斎藤達也医師は「それよりも慣れない運動で肉離れとか、ひざ痛とか相次いで大変です。女性役を演じるのに気を抜いて、すぐにおじさんに戻ったり」と苦笑いする。それでも、メンバーは貴重な時間を稽古に割き、体にムチを打ちながら本番を目指している。

 会場は収容2150人の大ホール。日本をけん引してきた男たちが、必死な姿を見せ、観客を元気にするためにガムシャラになっている。【柳田通斉】

 ◆六本木男声合唱団倶楽部

 1996年、エイズのチャリティーイベントのために著名人二十数人で結成された「元美少年合唱団」が母体。同合唱団解散後の00年、練習場所が六本木にあったことから、現在の名前で再結成。団員は約250人で、年齢は20代~80代。毎年、東京・サントリーホールで定期コンサートを開催。パリ、ハワイなど世界各地で海外公演も行う。団長は作曲家三枝成彰氏。

 ◆「ウェスト・サイズ・ストーリー」主な出演者(敬称略)鳩山由紀夫(67)元首相宮内義彦(79)オリックス・シニアチェアマン服部真二(61)セイコーホールディングス会長近衛忠煇(75)日本赤十字社社長ケント・ギルバート(62)カリフォルニア州弁護士林芳正(53)元農林水産相羽田雄一郎(47)元国土交通相柿沢未途(43)衆議院議員鈴木寛(50)東大大学院教授、慶大教授浅葉克己(74)アートディレクター横山幸雄(43)ピアニスト露木茂(73)キャスター小倉淳(56)フリーアナウンサー林真理子(60)作家

 ◆主な制作陣

 音楽監督・三枝成彰

 脚本・福島敏朗

 演出・三枝健起

 美術・わたせせいぞう※林真理子氏は声だけの出演。三枝成彰氏は出演者も兼ねる。カッコ内は年齢