81歳の仲代達矢が初めての1人芝居「バリモア」(22日まで=石川・七尾市能登演劇堂、11月3~16日=東京・世田谷シアタートラム)に挑んでいる。米名優ジョン・バリモアの晩年を描いた作品。膨大なセリフにも、楽しんでいる自分がいるという。80歳を過ぎても「悟りきれない」と独特の表現で語り、まだやりたいことがあると意気軒高だった。

 18日の演劇堂公演初日。役者生活62年の仲代も、緊張で意識がもうろうとしたという。「1人芝居だから、ポカしても自分の責任と開き直って舞台に出た」。稽古は7月に始まったものの、上演時間1時間半の膨大なせりふはなかなか入らなかった。自宅の壁にせりふを書いた紙を張り巡らし、深夜に目覚めると懐中電灯で照らして覚えたという。「長年温めた作品で、年齢的に今が限界と、崖っぷちから落ちる気持ちでやった」。

 かつての名優がアルコール依存症で心身ともに崩壊する姿を描くが、歌や踊りの場面もあって笑いで包みながら、老優の哀しみが舞台から伝わってくる。「お客さんと一緒に作っている、初めての感覚があった。休み時間がなく、神経を集中するのでしんどい部分もあるが、お客さんとの対話で楽しい気分になった」。

 演じる中で新しい発見もあった。「400年の歴史がある歌舞伎には代々伝承された型があるが、新劇にはなかった。それがバリモアをやって、新劇の型のようなものが僕の中に生まれてきた。80歳過ぎて新しいことをやって良かった」。

 東京公演のチケットの売れ行きは好調で「もっとやってくれという声もある。やるなら稽古場しかない」と無名塾の拠点「仲代劇堂」での続演も検討している。すでに来年10月から能登演劇堂を皮切りにした無名塾公演「おれたちは天使じゃない」が決まり、再来年3月の世田谷パブリックシアター公演など全国巡演を行う。また、来年も無名塾30期生を募集する。

 「(笑福亭)鶴瓶さんに『落語界では60過ぎて新作はやらない。やめなはれ』と言われたが、80歳過ぎても悟りきれないので、まだやりたいことがある」という仲代は、83歳まで仕事のスケジュールが決まっている。【林尚之】

 ◆仲代達矢(なかだい・たつや)1932年(昭7)12月13日、東京生まれ。俳優座養成所を経て、55年に俳優座入団。79年退団。代表作は舞台「どん底」「リチャード三世」、映画「人間の条件」「用心棒」「影武者」「乱」、ドラマはNHK大河「新平家物語」「大地の子」など。75年から無名塾を主宰し、07年文化功労者。

 ▼バリモア

 1942年、ニューヨークの劇場で老優バリモア(仲代)が再起をかけた「リチャード三世」の稽古を始める。せりふがおぼつかないバリモアは姿の見えないプロンプター(松崎謙二)の助けを借りるが、やがて自らの栄光と転落の生涯を語り出す。97年ブロードウェーで初演、映画にもなった。