第26回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)が9日、決定した。

 真木よう子(31)が難役を演じ切り、主演女優賞を射止めた。真木は映画「さよなら渓谷」で自分をレイプした男と暮らす被害者という複雑極まる設定に挑戦した。授賞式は28日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで行われる。

 今年は主演作「さよなら渓谷」でモスクワ、出演作「そして父になる」でカンヌと2つの海外映画祭に参加した。作品はそれぞれ、モスクワで審査員特別賞、カンヌで審査員賞を受賞。女優として世界の映画関係者に存在感を示した。「この賞をいただけたのももちろんですが、初めての、それも2つも国際映画祭を経験できて背中を押されたというかバンッとたたかれた感じですね」と振り返る。

 大きな瞳はよく動く。手足はほっそりとシャープで、小さな顔と併せてファッションモデルのような印象だ。カンヌでは金髪姿も注目された。「たまたま映画の撮影が空いた時期だったんです。自由にやっちゃおうということで」と笑う。わずかなオフに「金髪の冒険」をしたくなるのも、日頃の役への打ち込みが半端ではないからだ。

 「さよなら渓谷」のレイプ被害者役では資料を読みあさった。「実際、レイプ被害者の気持ちは理解できるものではないと思うんです。近づくのは難しい。資料を読むしかない。本屋さんをのぞいたり、ネットで調べて4冊くらい探して。どんな言葉を言って欲しかったのか、どんな音楽を聴きたかったのか考えました。ニュースを見てる時、どんな事件でもいつの間にか見方がものすごく被害者寄りになっていました」。

 演じた主人公は事件後、結婚するが、DV(ドメスティックバイオレンス)被害に遭い、結局かつてのレイプ加害者と生活を共にするという複雑な設定だ。「DVの回想シーンを撮った後、1人でロケ先のホテルの部屋に帰ったら、魂が抜けたようになって…。役に侵食された感じで、このままじゃおかしくなると。何かストンと役が入っちゃったんですね。慌てて大好きな木村カエラちゃんの曲をかけました。事が起こっているのは自分じゃないんだ、と言い聞かせる作業に入ったんです」。

 元俳優の男性(31)と08年に結婚。現在4歳になる娘がいる。「やっぱり周りに人がいるのといないのでは全然違います。あの時もホテルで1人っきりだったからだと思うし、周りに理解してくれる人がいるのは全然違いますね」。

 艶のある表情、抜群のプロポーション。これまで色気を感じさせる役も多かった。「さよなら渓谷」も濃厚なラブシーンがある。女優として飛躍を遂げた今年、新たな夢も見えてきた。本格アクション作の主演だ。「『グロリア』や『ニキータ』のような女性が主役で感情も発露して、傑作と言われて。そんなものが出来たら最高ですね」。

 兄と弟2人に囲まれて育った。「脳がきっと男なんです。素直に相談できるのが男友達だったりしますから。守ってもらいたいとか思わない。守ってあげたいと思うことが多いですから」。本来の「おとこ気」を前面に出したアクション作も楽しみだ。【相原斎】

 ◆真木よう子(まき・ようこ)1982年(昭57)10月15日、千葉県生まれ。01年「DRUG」で映画デビュー。06年映画「ベロニカは死ぬことにした」で初主演。06年映画「ゆれる」で山路ふみ子映画賞新人賞。その後も「モテキ」「外事警察

 その男に騙されるな」などの映画に出演。07年フジテレビ系「SP」や10年NHK大河ドラマ「龍馬伝」12年TBS系「運命の人」13年フジテレビ系「最高の離婚」などのドラマにも出演。160センチ。血液型A。

 ◆さよなら渓谷

 吉田修一氏原作の小説の映画化。俊介(大西信満)と妻かなこ(真木よう子)が暮らす自然豊かな渓谷で男児の殺害事件が起きた。容疑者として母親が逮捕され、事件は収束するかに見えたが、共犯者として母親の不倫相手の俊介が浮上。通報者は、かなこだった。かなこは15年前に起きたレイプ事件の被害者で加害者は俊介だった。かなこは何を思い、夫を警察へ突き出したのか。大森立嗣監督。

 ◆主演女優賞・選考経過

 真木よう子が1回目の投票で多数の支持を集めた。「今年は真木さんの年。『さよなら渓谷』は彼女の魅力で引っ張られた作品。女性が女優を見に行く魅力を出せる女優になった」(神田紅氏)「思い切った演技をして輝いている。まだまだ可能性がある」(残間里江子氏)「色っぽい」(品田雄吉氏)など難役を演じ切った演技力、存在感に称賛の声が多く上がった。