元アスリートが俳優として輝こうとしている。元ムエタイ王者の武田幸三(41)が、国際派俳優を目指し、全編英語の映画「デスマッチ」(アーティ・モーガン監督、21日公開)で映画初出演にして初主演することが分かった。

 タイの国技ムエタイ史上4人目の外国人王者に上り詰めた武田が、人生第2のリングでも世界を目指す。「海外で勝負できる俳優になりたい。全編、英語でやりたい」と、所属の吉本興業に直訴。熱意に応える形で同社による作品の製作、配給が決まった。ロケは全編フィリピンの首都マニラ近郊で行い、「日本人はさらわれやすいから」とマシンガンを持ったガードマン2人の監視下、約2週間で撮了した。

 現役時代は“超合筋”と呼ばれる肉体から繰り出す右ストレートと右ローキックによる一撃必殺にこだわった。09年10月の引退試合直前に、自身の愛称と同じタイトルの映画「ラストサムライ」を見て渡辺謙の演技に感動。俳優転向を決め、空手の新極真会・緑健児代表の紹介で10年に吉本興業入りした。強さを追求する格闘技と役作りに終わりのない俳優に共通項を見いだし、没頭した。

 キックを始めた際も世界王座を目標にしたが、俳優でも世界を目指すと決めた。連日のように演技レッスンを受け、既にドラマ出演の経験はあるが、同作への主演が決まり、時間が空けば英会話のレッスンを受けてきた。アクション用の派手な技を学ぶため空手の練習も始め、現役時代の技にはなかったハイキックも習得した。

 しかし、引退のはなむけに楽曲「STAY

 DREAM」を贈ってくれた長渕剛に同作の試写を見せると、しかられたという。「人を殺す職業って何だか分かるか?

 役者は兵隊としばらく暮らして初めて兵隊になれる。役の魂を入れるためには経験するんだ」。宿題を与えられ、向上心に火が付いた。「もっと可能性があるところを見せたい。(『エクスペンダブルズ』シリーズに出演の英俳優)ジェイソン・ステイサムとガチで殴り合いたい」。

 吉本興業は同作のフィリピン及びアジア圏での公開に動くほか、ストイックさが生きる役を中心にさまざまな経験をさせつつ、武田の海外進出を計画中だという。【村上幸将】

 ◆武田幸三(たけだ・こうぞう)1972年(昭47)12月27日、東京都生まれ。ラグビーで国士舘大に進学も、93年4月の「K-1GP’93」に衝撃を受け、中退して治政館入門。01年にムエタイのラジャダムナン・スタジアムウエルター級王座獲得。03年3月にK-1に参戦し、「WORLD

 MAX」日本代表トーナメント決勝で魔裟斗に敗れ準優勝。通算成績45勝(34KO)20敗7分け。

 ◆「デスマッチ」

 元雇い兵の日本人ジョー(武田)は、DVに遭うリサを助けようとして、誤って夫を殺した。刑期を終えて出所後、夫の借金で苦しむリサに近づくが拒絶される。そんな中、リサの兄ブライアンから賭けストリートファイトで金を稼ぎ、リサを救おうと誘われ、プランに乗る。快進撃を続けるが、戦場で撃たれた銃弾が頭部に残っており、左目が時折、見えなくなり苦しむ。