「成人の日」の夕刻。小雨-

 帰宅の電車は隣の車両が見渡せるほどの混み合いで、視線を巡らしてみたが毎年おなじみの晴れ着姿が見当たらない。午後のニュースが、貸衣装会社の営業停止を伝えていたがまさかそのせいでもあるまい。

 駅を降り、いつもの安酒場へ向かう。入口で店の中を覗いた。「成人」の祝宴? で盛りあがっていたらうっとうしい。混み合っていたら他へ移る算段であった。店内に人影は見えたがさほどのこともないようで、暖簾をくぐることにした。

 思えば40余年前、私も「この日」を迎えた。思うところがあって再度の大学進学を目指す浪人生だった。行政主催の式典があったはずだが、本人は図書館で、母親が作ってくれたおにぎりをかじって、参考書に目を落とした。

少々、すねていたのかも知れない。

 さて、カウンターに座ってみると、あにはからんや「成人」と思われる団体が宴会の最中であった。新調スーツにネクタイ、式典の流れであろう。女性はいなかった。

 2人掛けをつなげた長テーブルを囲んで、ある者はジョッキを傾け、ある者は烏龍茶でお茶を濁している。幾皿の肴(さかな)を整え、屈託なく笑い声を上げるが存外におとなしくわきまえて「門出」を祝っているように映った。

 会計のタイミングになると、真新しい長財布を取り出し千円札を引き抜き、端数が出ると誰もが小銭入れの底をまさぐり5円、1円玉をそろえて支払っていった。

 彼らが出て行くと、店はいつもの、休日の夕刻になった。

 アルバイトの女性が、散らかしたジョッキ、皿を片付け始めた。

 そう言えば彼女も「はたち」であった。「将来の夢はダンサー」-以前そんなことを聞いたことがあった。

【文化社会部編集委員・石井秀一】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「新聞に載らない内緒話」 (2018年1月)