旅行会社「JTBグループ」は「日本の魅力の再発見」をテーマに、各地の「旬」の魅力を掘り起こし、現地の魅力を感じてもらうキャンペーン「日本の旬 瀬戸内・山陰」を4月1日~9月30日まで実施する。

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 プロ野球球団・広島東洋カープの本拠地が広島市民球場であった頃、“お好み村”によく足を運んだ。プロ野球担当記者で、ナイトゲーム記事を東京本社へ送稿すると球場出口からタクシーを飛ばして駆け付けた。一目散、である。

 プレハブ2階建て(だと記憶するが)、お世辞にも立派とは言い難かったが、一歩踏み込むとそこは満艦飾さながらの、原色とりどりの暖簾がたなびき、深夜とは思えぬ賑わいで、終戦直後のヤミ市はかくのごとし、と思うほどであった。

 鉄骨むき出しの“スケルトン構造”。板張りの床、軋む階段を上るとそこもカオスで、丸椅子に陣取ると銀色に磨き上げられた、巨大な鉄板が大海の如く周囲を睥睨(へいげい)し、すきっ腹がグゥと鳴った。食の、官能世界へのいざないである。

 天井は開閉式で、立ち昇る熱気を屋外へ放出し、隙間から天の川を垣間見る夏の夜であった。紫煙、油まみれの、据え付けテレビには野球知識に乏しい女子アナが司会する「プロ野球ニュース」が放映され、つい先ほどまで取材していた広島対巨人戦を確認、各地の試合結果を肴(さかな)に担当記者の反省会も開かれたのである。

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 お好み焼きのために? 御当地・広島を訪れるのは30余年ぶりであろうか。今回は、「JR広島駅前からセグウェイで2分」が売り物の、新観光名所「ひろしまお好み物語 駅前ひろば」(電話082・568・7890=広島フルフォーカスビル6F)である。

 その規模は、最大収容人数350人、インバウンドの外国人を含む年間40万人が訪れる壮観だ。かつては戦前に庶民の間で親しまれた「一銭洋食」。具としてキャベツや卵、魚介類、そば、うどんを入れるなど工夫は、栄養不足を補うためであったと力説しても今どきの観光客には「聞こえまい」。お好み焼きは今や、国民食にまで目出度く昇格したのだ。

 「エースJTB」のパンフレットで申し込むとついてくる 「旅の過ごし方BOOK」をフル活用。とじ込まれている「広島お好み焼き 味くらべクーポン」で店内対象12店舗のうち2店舗を選択、お好み焼きハーフサイズ×2、ドリンク×1がワンコイン500円で利用出来る(実施期間7月1日~9月30日。除外日あり)。手っ取り早く味比べが楽しめる、お得なクーポンだ。

 早速試食。御当地の強力定番「オタフクソース」の香りが館内一杯に充満、聖地の店々を“巡礼”してみる。

これが「そぞ」のドーム型お好み焼き
これが「そぞ」のドーム型お好み焼き

 クーポン対象店のひとつ「そぞ」は、新スタイルとして認知されるふっくらドーム型お好み焼きが売り。生地の上にキャベツ、もやし、豚肉、魚介類などを重ね、“焼く”というより“蒸す“というイメージで仕上げる。「広島産牡蠣や瀬戸内産レモンの酸味が効いた結晶ソースと、さっぱり大根おろしの組み合わせは絶妙で、見た目以上にあっさり」とは店側の説明であった。

 さらに店舗「もくれん」に挑戦。押さえ付けず蒸し焼きにして、甘みを引き出したキャベツにパリッと焼いた逸品を堪能する。特注ならば、広島牡蠣の料理も楽しめる。

 余談ながら、「お好み焼き発祥の地」は広島でも大阪でもないそうだ。高見順の「如何なる星の下に」(講談社文芸文庫)には浅草の「風流お好み焼き-惚太郎」という店が登場する。そのくだりは、

 「本願寺の裏手の、軒並芸人の家だらけの田島町の一区画のなかに、私の行きつけのお好み焼き屋がある。(中略)そこは『お好み横町』と言われていた」

 昭和14年に発表された作品だが、いわゆる「文字焼き」(後の、もんじゃ焼きと思われる。お好み焼きの前身か)が出てくる。昭和の初期、もしくはもう少し前に東京で生まれたお好み焼きはその後関西以西に広がった。大阪にはお好み焼きの文献が見えないことから、「東京発祥では」と野瀬泰申はその著書、「食は『県民性』では語れない」(角川新書刊)で推測している。

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 「ひろしまお好み物語 駅前ひろば」から、世界遺産・原爆ドームの隣にオープンした新しい観光名所「おりづるタワー」(広島市中区大手町1の2の1)へ向かう。2016年7月にプレオープンしたここは地上14階の展望スペース「ひろしまの丘」が話題となった。

 吹きさらしのここは眼下に原爆ドームをはじめとする平和記念公園、広島市民球場跡地、元安川を見おろし、見上げれば「爆心点」(原爆爆発が起こった、三次元空間上の点という意味だが)、そして遠くに宮島…つまり「呼吸する街・広島の過去、現在、未来」を感じられる場所ということであろう。

折り鶴の手順を思い出しながら楽しむ「おりづる広場」
折り鶴の手順を思い出しながら楽しむ「おりづる広場」

 階下へ向かえば12階に「おりづる広場」。専用の折紙で折ったおりづるを「おりづるの壁」に投入することができる。おりづるタワーのシンボルである外壁は約50メートル、そのスペースを埋め尽くすには100万羽のおりづるが必要だという。若い人には初体験、年配は指先でたどる「記憶」- 折り鶴は世代を超え、存在できそうである。詳細はHP「おりづるタワー」(082・569・6803)で検索。

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萩、吉田松陰といえば松下村塾。特別講話が魅力
萩、吉田松陰といえば松下村塾。特別講話が魅力

 今年は大山開山1300年(鳥取)、松平不昧(ふまい)公没後200年(島根)、瀬戸大橋開通30年(岡山)、平清盛公生誕900年(広島)、明治維新150年(山口)と広島・中国エリアでは様々な節目となる年だ。とりわけ明治維新胎動の地・萩での松下村塾(しょうかそんじゅく)特別講話など歴史ファンには見逃せない企画も用意されている。

 他にも「絶景過ぎる」角橋大橋、123基の赤鳥居が日本海沿いに連なる「元乃隅稲成神社(もとのすみいなりじんじゃ)」、タクシー(一部地域のみ)で「はつもみぢ」など酒蔵を回り「オリジナルスタンプを集める「山口酒造御酒印めぐり」(0834・21・0075)など、「ふたつの海と心地のいい旅舞台 海・山・街・食・歴史、ここで過ごす時間が5つ星」をコンセプトに中国地区の様々な魅力にスポットを当て、地域ならではの「過ごし方」を提案する魅力満載のツアーだ。

 ★詳細はHP「JTBグループ 日本の旬 瀬戸内山陰」で検索。問い合わせはJTB各店舗、JTB旅の予約センター(0570・023・489)まで。

【文化社会部編集委員・石井秀一】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「新聞に載らない内緒話」 (2018年3月)