映画「男はつらいよ 『寅次郎の縁談』」は、1993年(平5)12月25日に公開された。シリーズ46作目の、この作品の一部は瀬戸内海が舞台になっている。

 マドンナは松坂慶子。第27作「浪花の恋の寅次郎」以来の登場であった。

 国民的映画だから、改めてストーリーを語ることはしないが、海岸通りを歩く寅さんと満男が再会する「小さな琴島」は、「現代社会から隔絶されたユートピアのような雰囲気で、駐在さん(笹野高史)、住職さん(桜井センリ)、おばさん(松金よね子)たち、島の住民たちも、どこかのんびりとしている」と「香川県 高松・松竹映画『男はつらいよ』公式サイト」は伝えている。

 この「瀬戸内海の琴島」、実際は香川県の志々島(ししじま)にあたる。塩飽諸島に属し、仏花として使われる小菊、ストック・マーガレット・キンセンカを育てる「花の島」と称されたのは昔の話である。

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 さて、今回はJR西日本と瀬戸内海汽船が共同で企画した「せとうち島たびクルーズ」(団体ツアー対象。6月30日まで)に参加した。寅さんならずとも、瀬戸内海の小島を縫う旅は、長年の夢である。

 広島・呉から竹原へ向かう東向き航路、しまなみ海道・生口島の瀬戸田から呉・広島へ向かう西向き航路の2パターンが設定され、史跡や古い家並みが多く残る大崎下島・御手洗(みたらい)エリアと、うさぎの島として話題の大久野島で立ち寄り観光した。船内では、海上からの風景やその地に根付く歴史といった見所を専任ガイドが適所で紹介し、特産品販売も行っている。

 当日は、JR西日本・新幹線「のぞみ」で福山駅着、バスで瀬戸田(広島県尾道市)へ。クルーズは瀬戸田から呉へと向かう西向き航路である。

 【大久野島】 1971年(昭46)年、地元の小学校がウサギ8羽を島に放したことから始まり、現在は700羽超のウサギが生息。いまや国内外から人気のある大久野島だが、戦時中、日本軍が毒ガスを秘密裏に作り、地図自体からも存在を消された悲しい歴史も。島内には毒ガスを精製していた痕跡が残っている。

大久野島でウサギとしばし交歓、ひとときを楽しむ
大久野島でウサギとしばし交歓、ひとときを楽しむ

 船上から、契島を眺めながら、【御手洗(大崎下島)】へ。江戸時代から風待ち、潮待ちの良港とされていた御手洗は、人と情報が集まる要衝として発展し、現在も残るその町並みは、1994年(平6)に重要伝統的建造物群保存地区に選定された。また、明治以降の洋風建築や昭和初期の看板なども点在し、時代に応じた発展の跡をとどめており、歴史情緒にあふれたエリアだ。

 【安芸灘大橋】 本州と下蒲刈島をつなぐ「安芸灘とびしま海道」の入り口に架かる橋。瀬戸内海を連想させる水色の橋が美しい瀬戸内海とマッチしており、船の上だからこそ楽しめる大迫力の絶景が見所。

 【音戸の瀬戸】 本州と倉橋島の間にある海峡。狭い可航幅、多種多様な船舶が通行する交通量の多さが特徴。平清盛が1日で切り開いたという伝説も残る。

 訪島を含む、約4時間にも及ぶ「せとうち島たびクルーズ」の後は船を乗り換え、絶景夕暮れを楽しむ「呉湾 夕呉(夕暮れと読ませるのであろう)クルーズ」に出発した。

夕闇迫る呉湾に艦船が並ぶ。夕焼けに映える
夕闇迫る呉湾に艦船が並ぶ。夕焼けに映える

 海上自衛隊・呉基地の「艦船めぐり」-停泊する護衛艦や潜水艦では、日の入り時刻に合図とともに,ラッパ譜「君が代」が吹奏されながら、自衛隊旗(16条旗)が降下される。

 桟橋や岸壁の多い呉の在籍艦艇数は約40隻。「いせ」「あぶくま」など護衛艦のほか、敷設艦「むろと」、音響測定艦「ひびき」、潜水艦救難艦「ちはや」などユニークな艦艇が係留される。

 それにしても、ある「目的」を達成するためだけに建造されたそれら艦船は、理屈抜きに美しい。敵の戦力を無力化するため無駄なものは全て抹殺し、迷彩のためグレーに塗り固められたそれらがけばけばしい民生品と決定的に異なるのは当たり前で、ではなぜ今、これら艦船が現実に必要なのか、問い掛けたくもなる。

 余談ながら、呉湾から2・9キロ、標高100メートルの丘上に旧海軍墓地、長迫公園がある。1890年(明23)に、海軍軍人などの埋葬地として開設されたこの墓地には、戦前に建立された墓碑が169基、「戦艦大和戦死者之碑」等78基の合祀(ごうし)碑がある。

 ★詳細はJR西日本「おでかけネット せとうちキャンペーン」検索。旅行各社(クラブツーリズム、阪急交通社、JR東海ツアーズ、朝日旅行などのHPでも検索可能)

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 瀬戸内の島々を訪ねる旅。翌日は「尾道水道クルーズ」を体験する。

 春から初夏にかけてと、夏から秋にかけて、期間限定で「尾道水道クルーズ」が行われる。尾道港から乗船し、日本遺産に認定された港町、尾道の町並みを眺めながら、のんびりと回る。しまなみ海道新尾道大橋をくぐり、尾道造船の巨大な新造船を間近で見物、穏やかな瀬戸内の海上から、美しい景色を堪能した。

 船上での「解説」はだみ声の船長と、若い女性社長が交互に担当。その息のあった案内ぶりに「もしや?」と訪ねると「そうなんです。父子2人で運営しています。アルバイトを雇う余裕も無くって」と、パーカー姿の社長は明るく笑った。クルーズと言うより「遊覧」といった感じだが、そのほのぼのとした“親子船”は旅の隠し味、かもしれない。

 十四日元町桟橋で降り、千光寺山ロープウエー山麓駅から徒歩3分、千光寺を訪ねる。大同元年(806年)、弘法大師の開基とされる真言宗の寺だ。千光寺山の中腹に位置し、尾道を代表する観光地「千光寺公園」はこの寺を中心に整備され、「文学のこみち」には正岡子規、林芙美子など尾道を愛した文人25人の碑が並んでいる。

千光寺公園の敷地、路地裏はネコたちの楽園
千光寺公園の敷地、路地裏はネコたちの楽園

 「文学のこみち」周辺は「いつの間にか増えた飼い猫、野良猫が100匹ぐらい」が、路地裏や公園敷地に春の日の中、観光客を迎え入れてくれる。5月6日まで、尾道市立美術館では企画展「にゃんとも猫だらけ」が開催されている。映画、アニメですっかり有名になったご当地。昭和を感じさせるアーケード街も時空を超えた楽しみを醸し出す。

 ★詳細はJR西日本「おでかけネット せとうちキャンペーン」「尾道水道クルーズ」で検索。旅行各社(クラブツーリズム、阪急交通社、JR東海ツアーズ、朝日旅行などのHPでも検索可能)

【文化社会部編集委員・石井秀一】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「新聞に載らない内緒話」 2018年4月)