都知事選で圧勝した小池百合子都知事による新しい東京都政が幕を開けて、はや2週間が経過した。自民党東京都連の政治手法を、「ブラックボックスのようだ」と指摘し、都連の幹事長だった内田茂氏を「ドン」と見立て、「都民の、都民による、都民のための政治を取り戻す」と訴え、多くの支持を得た。12日の会見では、都政の透明化を目的にした「都政改革本部」の9月設置を表明。都政の「裏舞台」に、いよいよ切り込む意向を示した。

 小池氏と、大きな存在感を持つ「ドン」との戦いは、今回が初めてではない。都知事選の取材をしながら、それを思い出した。

 小池氏は、参院選で初当選した1992年(平4)の10月、東京・銀座のど真ん中で、当時、政界のドンと言われた人物に対する「ほめ殺しキャンペーン」なる街頭演説を行っていた。

 「ほめ殺し」した相手は、自民党の金丸信氏。党副総裁を務め、当時、自民党だけでなく政界で、大きな力を持っていた。しかし5億円のヤミ献金疑惑という政治とカネの問題が発覚。その後、検察の捜査のあり方も重なり、国民から大きな批判を浴びていた。

 当時、参院議員になってまだ3カ月あまりだった小池氏は、ピンク色のジャケットに身を包み、選挙カーに上がった。「不正に受けた5億円を、子分にばらまいてくれる。なんて子分思いなんでしょう」「金丸さんは我々に、政治改革の必要性を気づかせてくれた最大の功労者。ぜひ(議員を)辞めないでいただきたい」と、強烈な皮肉をまじえながら徹底的にほめ続けた。

 ほめ言葉に変えながら、政界の大物を批判。当時、新人記者だった私は、素直に「こんなこと言って、大丈夫なんだろうか」と感じた。でも、500人くらいいた聴衆からは拍手や声援が起き、選挙カーに飛び入りで、スピーチする人まで出てきた。一般の人が「おかしい」と思うことを、「おかしい」といえる環境を、小池氏はつくってしまったのだ。

 「共感」を呼ぶための地ならし作業は、今回の都知事選での訴えにも通じる、小池氏の持ち味の1つでないかと思う。小池氏は、自身の政治信条が、「大義と共感(大義を振りかざしても、共感を呼ばなければ物事は進まない)」だと、明かしていた。

 このキャンペーンだけが理由ではないにしても、結果的に金丸氏はその3日後、衆院議員を辞職した。

 都知事選で、小池氏は24年前に「ほめ殺し」演説を行った同じ銀座の歩行者天国で、街頭演説を2度、行った。ドンとの戦いを訴える小池氏を取材しながら、あれ? この場所? この内容? と、デジャブ(既視感)を感じた。

 もちろん、当時、新人議員として臨んだキャンペーンと、今回、都知事として手がけようとしている公約の都政改革は、まったく重みが違う。今回は、どんな結果が出てくるのだろうか。