ドナルド・トランプ氏が米国の次期大統領になる就任式が、数日後に迫った。新大統領の就任式といえば、米国民にとって、自分たちを導いてくれる新しいリーダーの就任を祝うだけでなく、「お祭り」気分に浸れる瞬間だと思う。

 24年前になるが、93年1月、ビル・クリントン氏の大統領就任式取材で、ワシントンDCを訪れたことがある。連邦議会議事堂の周辺を埋め尽くした群衆や、議会からホワイトハウスまで約3キロ、ペンシルベニア通りのパレードを見るための場所取り。Tシャツやバッジ、ステッカーを売る屋台には、あふれんばかりのグッズが並び、競い合うように購入する米国人や観光客の姿が印象的だった。

 市内のホテルはどこも満室。私が泊まったホテルは、ホワイトハウスがある中心部からは少し離れた場所だったが、そこも就任式のための滞在客であふれていた。就任式やパレードの後には、市内各地で「公式記念舞踏会」が開かれるが、150ドル(現在のレートで約1万7850円)前後で売られたチケットを「買いたい」という人が連絡先を書いたメモが、ロビーの壁にたくさん張られていた。売買取引の価格は、通常の10倍にはねあがっていた。

 「9・11」前の当時と今では、セキュリティー対応は異なるだろうが、この舞踏会では、意外と近くでダンスを踊る大統領夫妻の様子を取材することができた。妻のヒラリー氏と登場したクリントン氏は、バンドの演奏に合わせて得意のサクソホンも吹き、やたらと盛り上がったことを覚えている。歌手バーブラ・ストライサンドらハリウッドスターの姿もあった。

 クリントン氏は、現職のオバマ氏が出てくるまで、共和党政権を変える、民主党・元祖チェンジの象徴だった。国民の期待の高さを、肌で感じた。それだけに、「不適切な関係」スキャンダルで追い詰められるとは、当時は思いもしなかったが…。

 時は流れて今回のトランプ氏。今回は就任式を受けて、反対派のデモも数多く行われるという。クリントン氏の際には、多くの熱烈な支持者こそいたが、大規模な反対デモなど目にしなかった。オバマ氏の時も、新しいチェンジに対する期待があふれていたと思う。

 過去最大規模といわれる、支持者と反対派のデモ。両者の間で、混乱も起きるだろう。当日は、何が起きるか分からない。

 トランプ政権という「未知との遭遇」に臨むことになる米国。大統領就任式特有のお祭り気分も、歴代大統領のケースとは異なるかもしれない。「未知との遭遇」が正式に始まる就任式まで、あとわずかだ。