静岡県牧之原市の認定こども園・川崎幼稚園の園バスに置き去りにされ、3歳の尊い命が失われました。1年ほど前に福岡県中間市の保育所で同じように置き去りにされた5歳児が亡くなったばかりでした。なぜまた繰り返されたのかという驚き、次々に判明するヒューマンエラー、さらには記者会見での園長らの不誠実な姿勢に対して、SNSなどで怒りと悲しみの声が巻き起こりました。

子どもを育てる親として、このような事態をどう考え、どう備えたらよいのでしょう。


記者会見で事情を説明する川崎幼稚園の増田立義理事長兼園長
記者会見で事情を説明する川崎幼稚園の増田立義理事長兼園長

■置き去り事件、なぜ繰り返されるのか

今回の事件では、運転手や補助員が園バスを降りる際に子どもが残っていないかの確認を怠ったことが、もっとも大きなミスでした。

このような過失が起こる背景には、園バスの運行業務特有のリスクがあります。

そもそも子どもは車中で眠ってしまうことがよくあります。体が小さいので座席の間に隠れてしまいがちで、閉じ込められたら自力で脱出することも、外に知らせることも難しい。保護者がわが子を車から降ろし忘れた事件もありました。

さらに、幼稚園や保育所などの園バスは、保護者のための付加的なサービスとして始められて、園バスに関する国の基準はなく、運転も手の空いた職員がするような脆弱(ぜいじゃく)な運営体制の園もあります。

もちろん、このようなリスクに対する対策を、昨年の事件から何もしていなかったわけではありません。

昨年の事件の後、国は「保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部における安全管理の徹底について」(令和3年8月25日付事務連絡) を発出し、この9月6日に再周知しています。

それによれば(要約)、

<1>出欠情報の保護者への確認、職員間での共有を速やかに行うこと。

<2>登園時や散歩等の園外活動の前後など、場面の切り替わりにおける子どもの人数確認について、ダブルチェック体制をとるなどして徹底すること。

<3>送迎バスを運行する場合は、運転担当者のほかに子どもの対応ができる職員の同乗が望ましい。乗車・降車時に座席や人数を確認して職員間で共有すること。

<4>各幼稚園等においては、「学校安全計画」「危機管理マニュアル」について、適宜見直し、必要に応じて改定すること。


どれも必要なことばかりですが、通知したからといって全園で徹底されるとは限りません。また、毎日の業務の中で、再び確認がおろそかになってしまうことは大いにありうることです。では、どうすればよいのでしょう。


■急ぎたい「確認もれ防止装置」の導入

すでに報道されているように、アメリカや韓国では、同様の事故が繰り返されてきた経験を経て、機械による防止策を打っています。

運転手がエンジンを切ってから最後尾まで行って装置にタッチしないと警報が鳴り続ける装置、あるいは警報が鳴り始める装置が開発されています。これにより座席の確認忘れを防止できます。韓国では、 2018年に法律に下車確認装置作動の義務化と罰則規定が定められ、2019年から実施されるようになりました。

降車後の車内にセンサーを働かせる装置も開発されています。

日本でも、注意事項の周知にとどまらず、韓国のような義務化を実施して、施設に対する指導監査の確認項目にするなどのことが必要です。国は、民間事業者の活動に制約を設けることに慎重ですが、子どもの命に直接的にかかわることであり、早急に行ってほしいと思います。

SNSなどでは、保護者が自衛策として子どもに車のクラクションの押し方を教えているというコメントが多く見られました。子どもはクラクションがどこにあるかわからなかったり、力が足りなくて押せなかったりするので、体重をかけて押す方法(お尻で押す、水筒で押す)を実際にやってみているという話もありました。

園バスであれば、子どもにわかりやすく押しやすい緊急ボタンを子どもの手の届くところに設置するとよいのではないかと思います。

今回の事件では、アプリ(管理システム)を使用して園児の出欠を管理していたにもかかわらず、いいかげんな入力をしていたり、そのデータと保育室での人数が一致していなくても保護者に欠席を確認しなかったことも問題になりました。

実はこの欠席確認、どこの園でもたいへんになっていると聞きます。保護者が欠席連絡を忘れていることは多いとか。だからといって今回の事件の責任が軽減されるわけではなく、登園していない児童の欠席確認は必ずしてもらわなくてはなりません。園バスを運行しているのであればなおさら重要なチェックになります。


■保育者が少ないという構造問題も

実は、保護者が送ってくる場合でも、登園後に子どもが外に出てしまった、散歩でいなくなったなどの事例が全国の園で多発しています。

保育者は、子どもたちが移動するときに節目節目で人数確認をし、はぐれた子どもがいないか注意しながら保育に従事しなければなりません。

本来子どもは元気いっぱい動き回るものであり、その自由な活動を保障することが心身の健やかな発達のために必要であることは、保育所保育指針や幼稚園教育要領にも記されています。

こういった教育の質としての遊びの保障と安全管理の両立のバランスはどこの園でも課題になります。最終的には、保育者が子どもにどれだけ目を向けられるかにかかっている部分が大きいのです。

ここには国が決めている保育者の配置基準が少なすぎるという構造的な問題があり、その改善も急務なのですが、ICTの力も助けにはなります。

私が見学させていただいた園では、タブレットにクラスの園児の登降園の時刻はもちろん、さまざまな特記事項、保護者からの連絡事項なども記録され表示されていました。タイムカードの打刻により遅刻や早退で人数が変動してもすぐにわかり、情報を園内で共有できるので、場所を移動しても担任以外も人数などを確認できます。

今回の事件ではタブレット管理を導入していたのに、十分に活用できていなかったことがわかっていますが、十分に活用できれば、さまざまなリスクの低減ができるはずです。

園バスの装置、これらのICTの設備にも相当の費用がかかりますが、各園で整備できるように国や自治体が援助してほしいと思います。税金を何に使うかの判断が求められます。

これから入園を検討している方は、園選びで何に気をつけたらよいかが気になるでしょう。

園バス運行を候補にし、入園を考えているのであれば、運行体制のチェックは必ずしてください。補助員が乗車しているか、座席確認・人数確認のもれ防止対策はどうなっているかなどを質問して、事業者がしっかり答えられるかを確かめてほしいと思います。

また、保育の様子を見学できたら、保育者に余裕があるかどうかも見てください。余裕がなくイライラしていたり、同僚とのチームワークがうまくいっていない場合は、子どもへの配慮も不十分になってしまいがちです。いろいろな体制を整えても、最終的に保育者の子どもを見る目にかかる部分をなくすことはできません。


■在園中の家庭が気をつけたいこと

園バスは便利です。保護者としては、園バス運行について疑問をもつことがあっても、せっかく運行してくれているのだからと目をつぶってしまうこともありがちです。でも、子どもの命にかかわることですから、運行体制や降車後の確認については、今一度園に確認し、不安があれば伝えたほうがよいでしょう。

前述したような装置の導入については、それぞれの事業者の規模や財政状況に左右されることなので、国や自治体の援助がなければ、当面、人力での確認の徹底をお願いせざるを得ない場合も多いでしょう。

園を少しでも助けたければ、保護者も欠席の連絡は忘れずにする、園活動を潤滑にするために設けられているルールは守るようにするなど、園運営に協力することが大切です。保育者に余計な負担をかけないことは、事故防止にもつながります。

保育園・幼稚園・こども園の保育は、子どもの健やかな成長のために多額の公費をかけて行われている事業です。国や自治体、事業者、家庭が「子どもを真ん中」に考え行動することが重要だと思います。

【普光院 亜紀 : 「保育園を考える親の会」アドバイザー】