背丈の高さまで水が迫る中、夫は妻の手を握り「長いこと世話になったな」と別れを告げて沈んでいった-。夏井川(なついがわ)の氾濫で大きな被害が出た福島県いわき市の自宅で亡くなった関根治さん(86)は最後の瞬間、妻に感謝の気持ちを伝えた。

妻の百合子さん(86)と2人暮らしだった治さんは検察庁の元事務官。16日に家の片付けをしていた百合子さんは、泥だらけになった六法全書や治さんのノートを見て「家でも勉強していたね」と思い出し、釣りや山菜採りが趣味の「温厚で謙虚な夫」との突然の別れを悲しんだ。

水害時は隣同士の布団で眠っていた。部屋の水位が徐々に上昇する中、隣室の普段は使わないベッドの上に百合子さんが先に避難。治さんは別の部屋から外に向かって助けを求めて叫び、119番もしたが救助は来なかった。ベッドの上に立って溺れるのを避けようとしていた百合子さんの下に、水に漬かりながら治さんがたどり着いた時には体力を消耗し切っていた。

百合子さんは治さんの手を引っ張ってベッドに上げようとしたが、大量の水の中で、足腰の不自由な治さんはどうしてもベッドに上がることができず「世話になった」と言い残して沈んでいった。治さんの手の冷たい感触が今も残る。

「夫婦って2人でいるのが良いことで、1人になったら生活が変わってしまうね」。百合子さんは、娘や親戚と片付けをしながら、小さくつぶやいた。(共同)