ソフトバンクの機密情報漏えい事件で、情報を受け取った疑いがある在日ロシア通商代表部の代表代理で外交官アントン・カリーニン氏(52)が、ロシア対外情報局(SVR)で科学技術情報を収集する「ラインX」と呼ばれるグループに所属していたとみられることが15日、捜査関係者への取材で分かった。

接触場所は飲食店だけでなく神社の境内も使い、報酬は情報ごとに数万~数十万円だったことも判明。最先端技術の周辺にいる人物を狙い、自分の名前も明かさないまま情報を抜き取る「典型的なスパイの手口」(捜査幹部)による工作活動とみられ、警視庁公安部は警戒を強める。

「あの日本人は誰だ」。公安部がひそかにカリーニン氏の動向を調査する中で、接触を重ねる1人の日本人が浮上した。その後の捜査でソフトバンクのモバイルIT推進本部無線プロセス統括部長の荒木豊被告(48=不正競争防止法違反罪で起訴)と判明。社内では「真面目な人間」と評されていた。

捜査関係者によると、カリーニン氏は名前や連絡先を教えず、接触時に次に会う場所や日時を指定していた。証拠を残さないスパイの常とう手段で、要求は公開情報から次第に機密性の高い情報にエスカレートし、報酬は数万円から段階的に数十万円まで上がった。

多いときは月1回ほど、飲食店のほか神社などでも接触。荒木被告は「周囲を盛んに気にしていて、スパイかもしれないと思った」と話している。カリーニン氏は警察当局の出頭要請に応じないまま10日、帰国した。

ロシアのスパイに詳しい公安関係者によると、SVRはスパイを養成するため日本語を学ぶなどした人物をスカウトして訓練している。通商代表部の代表代理の肩書を偽装に使う情報機関員は多いとみられ、活動内容はごく一部しか知らないという。

企業情報を狙ったサイバー攻撃が相次いでいるが、人に接近して機密を抜き取る工作活動は痕跡が残りにくく、構想段階の情報も得られる利点があり依然活発とされる。公安部幹部は「スパイの暗躍は国益の損失につながり、野放しにはできない」と語気を強めた。(共同)