川端康成や三島由紀夫、池波正太郎ら名だたる文豪が愛し、定宿としてきた東京都千代田区の「山の上ホテル」が、12日の営業を最後に休業した。建物の老朽化が理由で再開時期は未定。最終日の同日は、ロビーやレストランを訪れ、別れを惜しむ人の姿が見られた。

東京都内の男性(77)は「日常の騒がしさを離れた環境とおもてなしで、作家の能力が開花したのかも」と思いをはせた。建築好きという都内の大学生稲津光さん(24)は「ホテルはこだわり抜かれたデザインで街の顔。このスタイルは変えてほしくない」と願った。

1954年にホテルとして創業。出版社が多い神田神保町に近いこともあり、作家に執筆に集中してもらう「缶詰め」の現場として度々使われた。創業当時からロビーは原稿を待つ編集者らであふれていたという。

アールデコ様式の建物は、石炭商の依頼で米国出身の建築家ボーリズが設計し、37年に建てられた。クラシックな雰囲気と静かな環境を気に入った三島は、こんな言葉を手紙にしたため、ホテルに贈った。「ねがはくは、ここが有名になりすぎたり、はやりすぎたりしませんやうに」

食通だった池波は館内レストランの天丼をよくルームサービスで注文したという。ロビーには池波が描いた絵が飾られ、ライティングデスクや辞書など文豪ゆかりの品々も置かれていた。

昨年11月24日に亡くなった直木賞作家の伊集院静さんも20年以上前から定宿にし、取材場所に指定することも多かった。同ホテル営業部次長の峯松泰広さん(42)は「出版関係の方々とお酒を飲みながら、ご自宅のようにくつろいで過ごされていました」と懐かしんだ。(共同)