昨年の新国立競技場、エンブレムに続き今年も東京五輪問題がこじれた。話題性でリオ大会をもしのいだのが、小池都政が断行した「3会場見直し」。水泳会場は早々に落ち着くも、バレーボールは「有明アリーナ」(江東区)と「横浜アリーナ」(横浜市)、ボート、カヌー・スプリントは「海の森水上競技場」(江東区)と「長沼ボート場」(宮城県登米市)で揺れた。小池改革肝いりの都政改革本部の中心人物、上山信一特別顧問(59)が国際オリンピック委員会(IOC)をも巻き込んだ改革劇を振り返った。

 -横浜アリーナの断念。都の調査チームに対し、都議会自民党などが「事前調べが足りない」などと批判した

 「自民党からは1度もヒアリングを受けたことがない。調査不足とおっしゃっていることが調査不足じゃないですか」

 -観客動線、放送用などの周辺用地が足りなかったことが要因か

 「用地をどう使うかIOCの専門家はしっかりアドバイスをくれた。そんな初歩的なことが致命的になったわけではない。有明案と同様、横浜案も熟度が上がった。その上で知事の相対的判断だ」

 -クリスマスまで結論を延期したのは、民間事業者からの接触を待っていたからか

 「そうではないが、熟度の低い提案は何社か来た」

 -日本トップリーグ連携機構とコンサートプロモーターズ協会は組んで、大会後の民間運営(コンセッション方式)へ手を挙げた。彼らの接触と計画内容はどうか

 「間接的な接触はあったが、有明のあの場所で、あの建物でという具体論になっていない」

 -宮城・長沼ができなかった最大の理由は

 「競技団体の意向。あとは『海の森』の整備費が安くなったことと、止めた場合(受注者への)違約金が100億円となったこと」

 -宮城県の村井嘉浩知事と「同郷」など昔からの知人などと指摘された

 「そうだけど、そんなの関係ない。向こうは知事だから(議会もあり)そんなんで物事は決められないでしょ」

 -3会場とも従来の場所となり「3敗」と言われている

 「マスコミが言ってるだけ。我々の目的は2兆、3兆を抑制すること」

 -既存勢力の抵抗がかなりあったのでは

 「そういうものでしょ。既に着工していたので、難易度は高かった。競技団体で相対的に協力的だったのは水泳。他は違った」

 -組織委の森喜朗会長は一貫して従来の計画を主張していた。組織委自体のの体質はどうだったか

 「官僚的。大局観を持った人たちではなく、大会運営の作業集団。足りない1兆円超をどうするかとかの問題意識はうすい。もともと(収入分の)5000億円と大会運営しか担わない構造に由来すると思う」

 「ただ、組織委を責めても仕方ない。IOCと東京都、日本オリンピック委員会が結んだ開催都市協約が問題。協約では、組織委がお金をいくら使うかは勝手に決めて、最後にもし赤字が出たら都が補うとなっている。一方で、仮設整備費は全部、組織委が持つとなっており、全部払えるわけがない。これも矛盾がある。もともと協約に無理がある」

 「あの協約は独裁者みたいな人がいて、今回のように組織委が出せないものは『都や国が出しなさい』と返答できる場合なら大丈夫。しかし、住民の意向に従う民主主義国家、先進国では成り立ちにくい。でも(招致に乗り出した元都知事の)石原さん、森さんが誘致した時の発想はそういうこと。石原都政だったら、いくらでもポンって出してたかもね」

 -9月29日の調査報告書で都、組織委、国の3者による調整会議のガバナンス(統治)が崩壊していると指摘したが、結局何も変わっていないのでは

 「(IOC、組織委、都、政府の)4者の事務レベルでは、立候補ファイルの金額が低すぎる『ウソ』などの問題も議論し、共有した」

 -森会長は仕組みが破綻していることは理解しているか

 「森さんとはそのことで直接話したことがないから分からない。4者の事務レベルでは分かっていると思う」

 -組織委が公表した大会総経費1兆8000億円の評価は

 「14年にしっかり見直していれば、もっと圧縮できた。対応が遅い。(落選した)16年招致の立候補ファイルを引きずって、20年の招致をやり、招致成功後も抜本的な見直しをしなかった。そこに14年、アジェンダ2020ができ(地方の既存会場を利用するなどして)都の負担は下がった。しかしそこで、有明も海の森も見直されなかった。あの時、長沼や横浜を検討していたら、コストはもっと下がった」

 -手遅れか

 「建設費は1000億~2000億円程度。今後は調達などで何千億も変わって来る。これからだ。計画や調達で失敗すると3兆に膨れあがる可能性はまだある。予断は許さない」

 「我々が3兆円と言ったから、IOCの要求基準も柔軟になった。言わなければIOCの要求の言いなりだった」

 -一難去ってまた一難。仮設整備費の分担問題が出てきた。これが20年までの最後の山か

 「そうでしょう。でも都市協約がおかしいのだから、問題が起きることは分かっていた」

 -地方自治体が「仮設は組織委で」という立候補ファイルの約束を守れと言っている

 「そう言われるなら都に返上されることも考えないといけない。既存施設の改修を全額タダでやってほしいと言うのはどうなのか」

 -都が他の自治体の仮設にお金を出すことはできるのか

 「例えば座席。恒久的なものにするなら、地方財政法により出せない。ただ極端な話、大会後に取ってしまうような座席なら『ソフト』となるので出せるかもしれない。あとは国が補助金で出すかだ」

 -激動の3カ月でした

 「本当だ。ただ、大阪都構想の住民投票の経験に比べると全然。あの時は住民の8割方巻き込んで、その半分が反対していた。五輪は各論。競技団体が反発することは予想できた」【三須一紀】

 ◆上山信一(うえやま・しんいち)1957年(昭32)10月6日、大阪市生まれ。京大法学部、プリンストン大学大学院を経て、運輸省へ。退官後、米コンサルティングのマッキンゼー社などを経て、慶大教授。大阪府・大阪市特別顧問も務め、橋下徹氏のブレーンも務めた。

<五輪会場見直しの経過>

 ▼9月1日 小池知事が、五輪調査チーム設置。海の森などを視察

 ▼同29日 調査チームが3会場見直し案を公表。海の森の代替地で長沼を提案

 ▼10月15日 小池氏が、長沼を視察

 ▼同18日 小池氏と会談したIOCバッハ会長が、都、政府、組織委の4者協議設置を提案

 ▼11月1日 都調査チームが最終見直し案を発表。水泳会場の辰巳使用は断念も、バレーボールの「有明VS横浜」が鮮明に

 ▼同29日 4者協議で長沼断念。バレーボール会場はクリスマスまで延期

 ▼12月16日 小池氏が会見で有明新設を明言も約400億円削減を強調

 ▼同21日 4者協議で3会場とも従来計画で承認