ブラック企業の対極にあるホワイト企業を認証する一般社団法人「ホワイト認証推進機構」が設立された。ブラック企業被害対策弁護団や社会保険労務士など労働問題の専門家が、労働環境をチェックし、問題のない法人を「ホワイト」と認証する。すでに第1号が認証され、今週には社会福祉法人、医療法人、派遣会社の3法人が「ホワイト」と認証される。明るく健全な職場形成は、企業のブランド力の向上にもつながる。“ブラック撲滅”の最前線を追った。

 ホワイト企業の認証には厚労省のホワイトマーク(安全衛生優良企業公表制度)などがあるが、書面審査が中心だった。このため、新入社員の高橋まつりさんが過労自殺した電通が、労働時間の短縮や子育て支援に取り組む企業として「くるみん認定」(注1)を07、13、15年と3回にわたって受けるなどの問題も起こった。

 2月1日に発足したホワイト認証推進機構は労務規定の整備状況に加え、運用実態をヒアリング、アンケートなどを通して調査する。弁護士2人と社会保険労務士のチームが1カ月かけて約150項目をチェックし、ホワイト認証する。

 ホワイト認証推進機構理事の大川原栄弁護士(ホワイト弁護団代表)は「多くは立派な就業規則など社内規定があり、形式チェックだけでは『ホワイト』になる。サブロク協定(注2)の内容は社員に伝わっているのか、就業規則は見ることができるところにあるのか、タイムレコーダーと賃金台帳を照合し、実際の運用を調べます。認証後に問題が発生したら、認証の取り消しも行います」と話す。

 認証にかかる費用は10人未満の企業で20万円、50人未満が30万~50万円、50人以上で50万~100万円。認証期間は2年で、自動更新はされず、2年後再び認証手続きが必要になる。費用対効果を考える企業が果たしてお金をかけてまで認証を求めるだろうか。

 大川原弁護士は、労働人口の減少で需給のアンバランスが発生(注3)していることを指摘する。

 「ブラック企業は使いつぶしても労働者が供給されることで成り立っていた。しかし、この1年半で需要が供給を上回る時代に入り、企業は非正規社員を正規社員にするなど人材確保に必死です。労働環境を改善しないと、人が集まらない時代に入った」

 適正な労働環境であると客観的に認証されることで、人材確保で優位に立てる。さらにはブランド力も向上するというのだ。「社会のスタンダードにしたいと思っています。(全国400万~500万社のうち)10万社を目指したい」と話す。【中嶋文明】

 【注1】◆くるみん認定 一定の基準を満たした企業は、申請すると「子育てサポート企業」として厚労相の認定を受ける。昨年末時点で2634社が認定を受けている。「くるみん」の愛称は、赤ちゃんを包む「おくるみ」と「社会ぐるみ」から。

 【注2】◆サブロク協定 労働基準法は法定労働時間(1日8時間、1週40時間)と週1回の休日の原則を定めているが、36条で「労使で協定し、行政官庁に届け出た場合、その協定に定めるところによって労働時間を延長し、または休日に労働させることができる」としている。時間外、休日労働に関する協定のこと。

 【注3】◆労働力不足 有効求人倍率は1・43倍と91年以来の高水準となり、人手不足が深刻化している。このため、ユニクロ、住友生命など非正規社員を正社員とする企業が相次いでいる。ヤマト運輸は春季労使交渉で組合と賃上げとともに働き方改革を協議。荷物の総量抑制、時間帯指定サービスの廃止などで合意した。