アダルトビデオ(AV)の出演強要問題を受け、大学教授や弁護士が今月立ち上げた第三者委員会「AV業界改革推進有識者委員会」(志田陽子代表=武蔵野美術大教授)が17日、メディア向けの説明会を都内で開いた。

 志田代表は「AV業界版の放送倫理・番組向上委員会(BPO)をイメージしている。業界をチェック、監督する機関を目指す」と話した。

 委員会はメーカー、プロダクション、流通業者、出演者の団体として立ち上げられた表現者ネットワーク(AVAN)らが参加し、業界の発展と健全化を進めることを目的とした。罰則を含めた基本規則を公表。撮影内容を出演者と制作者で合意しなければならず、意に沿わない場合、出演者は出演を打ち切れるよう契約書に盛り込むと定めた。トラブルが遭った場合の仲裁機関を委員会に設けるとした。

 委員の1人、表現の自由や個人の自己決定権の問題に詳しい山口貴士弁護士は「AV出演者の自己決定権が確保されなければ、重大な人権侵害の温床になりかねない」と指摘。

 罰則などの細かいルールは半年後の法人化までに整備するという。山口弁護士は規則に違反する行為があった場合「この組織から出ていってもらう。なぜ出て行ってもらったか事実を公表することになる。ペナルティーとしては重いと思う」と話した。

 AV出演強要問題では、被害者の相談を受ける支援団体が被害の拡大を訴えている。スカウトにだまされ、違約金などで脅されるなどして、出演を強要される被害が相次いでいるという。プロダクションに所属する前段階で、強要が成立するケースもある。山口弁護士は「AVのスカウトは合法かというと問題がある。その存在を前提として組織の仲間に入ってくれとはいえない。プロダクションに直接来る人を想定している」と説明。ただ、その後のプロダクションでの契約段階では「AV出演と前提で来ているのかというのは確認する」とした。

 山口弁護士は「カバーできないこともある」と認めつつも、同委員会の活動によって「参加団体は規則を守る。おのずと女優も自己決定権の担保された団体に流れ、グレーな存在やブラックな存在はなくなっていくのではないかと期待している」と話した。

 出演強要問題の被害実態の調査について、山口弁護士は「半年後の法人化までに罰則やルールを定め、その後、調査をすることになると思う」と話した。委員で桐蔭横浜大副学長の河合幹雄教授は「AV業界には女優が何人いるか、調査の前提となる数字もない。まずは、統計学的に問題点をあぶり出せるような基本調査を行いたい」と話した。

 説明会に参加したAVANの川奈まり子代表は「委員会の設立を歓迎している」と評価。「AVANも契約書のガイドラインを策定しているが、正直、プロダクションに理解を求める作業は進んでいない。撮影現場では貧困や性感染症の問題などの問題もある。健全化に向け、委員会に協力していく」と話した。

 山口弁護士は「契約に違約金の条項を設けない、理由なしに出演を中止できるということも明記する。出演者の自己決定権をしっかり担保していくことで、業界側も(被害の訴えと)言い掛かりや冤罪(えんざい)を区別できる」と話した。

 AV出演強要問題を巡り、被害者の相談を受け、支援する支援団体側と、適正な業務を担保した上で表現活動を続けたいという業界の事実認識には、ズレがあるのが現状だ。委員になった歌門彩弁護士は、「これまでの被害についての報告書と、業界の事実認識には大きな隔たりがある。業界の事実認識は遅れているのではないかという印象を持っていた」と明かした。その上で「人権侵害が起きる可能性がある中で、何をしなければいけないか。法律家としてできることをしたい」と話した。【清水優】