北朝鮮による弾道ミサイル発射が相次いでいることを受け、日本各地で避難訓練が行われている。米どころの新潟県では燕市の水田風景の中で訓練。農業の男性らは用水路に逃げ込んだ。国はコンクリートの丈夫な建物や地下への避難を推奨しているが、地域によってはその条件がそろわない場合も多い。内閣官房では、各地の住民が工夫したさまざまなパターンの避難方法を参考にしてほしいとしている。23日には静岡県下田市の漁港で、太平洋側で初となる訓練が実施される。

 新潟県燕市渡部地区。20センチ近くに伸びた稲が並ぶ水田に、防災無線のスピーカーから「ウィーン」という独特なサイレンが流れ、訓練が始まった。

 「ミサイル発射。ミサイル発射。ミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難してください」

 内容とのギャップに驚くほど間延びしたアナウンスだが、聞き取りやすい。

 水田にいた武内秀記自治会長(70)は、周りの仲間に「ミサイルが来るぞ」と大声で指示。水田には「頑丈な建物」も「地下」もない。隠れられるのは用水路くらいだ。武内さんは農業用水のコンクリートの細いトンネルに潜り込んだ。

 1分半後、次のサイレンが鳴った。

 「直ちに避難。直ちに避難。直ちに頑丈な建物や地下に避難してください。ミサイルが落下する可能性があります」

 とはいえ、周囲にトンネル以上に頑丈な建造物はなく、武内さんは動かない。最初のサイレンから4分後には

 「ミサイル落下。ミサイル落下。ミサイルが新潟県周辺に落下した可能性があります。引き続き屋内に避難してください」

 地区外の県周辺に着弾した想定だ。武内さんは次の避難指示に備え、近くの建物に移動した。

 弾道ミサイル避難訓練といっても、核兵器か、通常兵器か、生物化学兵器かは想定していない。内閣官房の事態対処・危機管理担当の伊藤敬参事官によると「落下するまで、弾頭の種類が分からないから」と説明する。それより、まず迅速な行動が求められる。昨年2月に発射された北朝鮮の弾道ミサイルは、沖縄県先島諸島を約10分で飛び越えた。訓練では発射から着弾を7分間と想定。日本政府が発射を「覚知」してから着弾までわずか4分間で、爆風や破片から身を守るための訓練だ。何もない平地なら、伏せるしかない。

 畑にいた農業の女性は、近くにあった土管のようなものの中に入った。木造の自宅にいた金塚信義さん(73)は妻と窓のない廊下に伏せ、頭に座布団をかぶった。各住民が訓練までの約10日間、「4分間」でどう行動するかを考え、動いた。金塚さんは「これでどこまで防げるか分からないが、野球だって、練習して初めて試合で体が動く。考えなしに右往左往するより、訓練しといて悪いことはない」と話した。【清水優】