「築地は守る、豊洲を生かす」。東京都の小池百合子知事は20日、都庁で会見し、築地市場(中央区)の豊洲市場(江東区)移転問題について、築地と豊洲の「共存案」を提示した。豊洲に市場を移転した後、5年後をめどに築地を市場機能を持つ場として再開発。豊洲はITを活用した総合物流拠点で活用すると述べた。ただ具体的な工程表や財源は示さなかった。

 昨年8月の豊洲移転延期表明から約10カ月。都議選直前のタイミングで示された「基本方針」は、築地か豊洲かの二者択一でなく「築地は守る、豊洲を生かす」という第3の道だった。

 築地市場は5年後をめどに再開発し、「食のテーマパーク」機能を持つ新たな場とし、豊洲市場は、将来にわたる総合物流拠点とする。具体案は事業者や都民との対話を経て、情報公開の上で検討するとした。

 「築地か豊洲か」の議論が過熱する中、小池氏は最近になり、「築地ブランドを守りたい」との認識を打ち出し始めた。17日の築地市場訪問では、エジプト・カイロで日本料理店を経営していた母の依頼で食材を築地で探し回った経験を明かし、「築地からというと、喜んでもらえた。築地にはお世話になった」と、思い入れを述べていた。

 一方で、豊洲移転の場合、赤字が最大で年間92億円となり、築地以上の維持コストがかかるとの試算が、「市場のあり方戦略本部」で示された。この日配布した資料には、豊洲の課題について最初に「安全・安心は未達成」と記した。

 それでも最近の各種世論調査では、豊洲移転を求める声が増えていた。今回の基本方針を前に進めるには、都議選で都民の支持を受けるのが大前提だ。都議選で、都民ファーストの会と選挙協力する公明党も、小池氏に都議選前の判断を求めていた。政界関係者は、「この時期の判断は、公明党に配慮した面もあるだろう」とした上で「ただ、基本方針がどう進んでいくのかは、知事自身もまだ見えていないはずだ」と指摘した。

 小池氏は「(予定通り)築地を売却すれば一時的にはお金が入るが、ハコモノをつくれば終わりで、将来にツケを残していいのか」と指摘。「築地と豊洲の両立が、最も賢いお金の使い道だ」と主張したが、具体的な工程表や財源について明言は避けた。

 質疑では、豊洲市場整備で生じた借金の返済について問われ、「税金を投入することはないようにしたい」と述べたが、「投入しないのか」と突っ込まれると、「さまざま考え、最も賢いお金の使い方でいきたい」と言葉を濁した。公務を理由に、会見は30分で質疑は数分。会場を出る小池氏には、記者から「大事な問題。もっと時間を取るべきだ」と声が飛んだ。