「ひふみん」の愛称で親しまれている将棋の加藤一二三(かとう・ひふみ)九段(77)が6月30日、東京・千駄ケ谷の将棋会館で引退会見を行った。同20日の対局で敗れ、現役引退が決まった。「神武以来の天才」と呼ばれた棋士生活は、63年に及んだ。会見では、自らが持つ14歳7カ月のプロ入り最年少記録を昨年10月に塗り替えた、藤井聡太四段(14)を後継者に指名した。

 「神武以来の天才」が、昨年12月のデビュー戦の相手で、現在負け知らずの29連勝と快進撃を続ける藤井に「天才」の座を禅譲した。「素晴らしい後継者を得た」と、晴れやかな表情で話した。

 持ち時間20分予定の引退会見。終盤、自らが持つプロ最年少記録を5カ月塗り替えた中学生棋士に話題が及んだ時だった。「デビュー戦で感心した。私がおやつのチーズを食べた後、彼は間を置いてチョコレートを食べた。(人間的に)先輩に対する気遣いができていた」と、63年間戦ってきた史上最高齢棋士をうならせた。

 さらに天才が新しい天才の存在を悟った瞬間も披露した。対局の終盤、盤面を見た後、「加藤先生、攻勢と思っているんでしょう? 私の方が勝っているんですよ、と藤井さんがこちらをチラッと見て、目で送ってくれたように思えた」と振り返った。結果的に加藤九段は敗れている。