今年の土用の丑(うし)の日は7月25日と8月6日。誰もが思い浮かべるのはうなぎ。そして、その食べ方はかば焼きがポピュラーです。うなぎは欧州、ラテン系の国々でも食されますが、もちろんかば焼きではありません。そこで、都内で初めて、本格的なうなぎフレンチをメニューに出しているレストランを取材しました。この店で使われているのは、一般的な養殖とは違い、巨大な水槽で養殖された完全無投薬のうなぎ。天然うなぎに近い味が楽しめます。

 日本で食されているうなぎの99%は養殖。一部では天然うなぎをうたう店もあるが、総じて高価だ。食通の間では、岡山・児島湾の青うなぎが美味とされるが、1尾あたり3万円はする。都内の老舗うなぎ店で食べると、うな重が1万円超。庶民には程遠い味だ。

 そんな天然うなぎを目指して、養鰻(ようまん)業界に新規参入したのが奈良県大和高田市にある大和淡水グループだ。中古車販売業を手掛けていた代表が、水槽で金魚を飼えるのだから、うなぎもできないかとスタート。私財数億円を投入し、水槽で、水温やえさ、明るさなどを調整しながら研究。独自の養殖技術を確立した。

 河川ではオスとメスは1対1だが、一般の養殖場では99%がオスに育ってしまうという。

 ところが、同グループは逆に、99%がメスに育つ技術も確立した。この技術を水産庁が高く評価し助成金を出すようになり、うなぎの完全養殖も可能になったという。ただ、現在では1尾あたりコストは10万円もかかり、現実的ではない。でも、近い将来には、完全養殖のうなぎを私たちが食することも夢ではなくなった。一般的にオスよりもメスのうなぎの方が美味とされている。

 このうなぎを使って「うなぎフレンチ」を売りにしているのが東京・九段下にある「レストランABO」だ。もともと、鹿児島・大崎牛が売りだが、縁あって同グループのうなぎを仕入れることができたことから、うなぎフレンチをはじめた。オーナーの正木晃氏は「日本人がうなぎといえばかば焼き。でも、ポルトガルやイタリア、スペインなど、ラテン系の国々はうなぎを食べるんです。日本ではうなぎを使ったフレンチはほぼないので、だったらやってみようかなと考えたんです」。

 大和淡水グループもかば焼きではない新しいマーケットを作りたいという思惑があり、双方が合致した。正木氏によると、魚が生臭かったりするのは水の問題なのだという。養殖では水に菌が入るので必然的に薬剤が投与される。しかし、同グループのうなぎは完全殺菌された水槽での養殖のため、ニオイがほぼないという。正木氏は「だから天然うなぎ並み。ヨーロッパではワインとともにうなぎを食べます。すしもカリフォルニアロールなど、異文化が入って裾野が広がったように、うなぎの食文化も多彩なものになればいいと思うんです」。