福岡、大分両県で36人の死者を出した九州北部豪雨から、今日5日で1カ月。いまだに福岡県朝倉市の5人の行方が分かっていない。同市杷木(はき)松末の建築業、田中耕起さん(53)は地域に残り、安否不明の妻加奈恵さん(63)の帰りを待っている。行政の防災対策や災害対応に疑問を抱き、訴訟を検討していることを明かした。豪雨発生直後に取材した清水優記者(42)が再び被災地を訪れ、今日から3日連続で現状をリポートする。

 先月24日、田中さんは筑後川の一斉捜索を自衛隊のヘリから見守った。「有明海まで行った。彼女たち5人が着とったもんとか、見つかる可能性はあると思うとったが。何も見つからんかった」。妻の帰りを待ち続けて1カ月。「生存の見込みは少ないじゃろうけど。旦那が諦めてはいかん。家族が諦めてはいかん」。強い言葉だった。

 先月5日朝。玄関を出て、庭の前の乙石川にかかる小さな橋を渡り、仕事に出た。川沿いの道を約2キロ下り、乙石川が赤谷川に合流する松末小学校付近の事務所が職場だ。事務所付近もひどい雨だった。自宅の加奈恵さんから、午後1時半ごろから15回ほど電話があった。「庭が流された」「橋が動いてる」。助けに行こうとしたが、事務所も既に濁流に囲まれていた。励まし続けたが、午後6時半ごろ、連絡が途絶えた。