聞くに堪えない叫び声で追い込まれる国会議員がいる一方、叫ぶ姿が大人気のサルもいる。東山動植物園(名古屋市)のフクロテナガザル、ケイジくん(推定30歳以上)。「ああああああ」という声は、どこか切羽詰まったような悲哀が漂い、「オッサンの叫び声みたい」ともいわれる。実際は、縄張りを主張する際の雄たけびで、声が大きいほどオスの強さが表れるという。間近で見たケイジは、サービス精神旺盛なエンターテイナーでもあった。

 「ホホホホホ…フォッ、フォッ、フォッ」。東山動植物園のフクロテナガザル獣舎から、ケイジのこんな声が聞こえ出すと、「鳴き待ち」の客が一気に集まる。客の視線を浴びたケイジは、長い手でうんていを動き回り、金網に手足をかけながらペロッと舌を出し、アピールに熱心だ。ケイジが鳴くと、パートナーのマツが絶妙に合いの手を入れ、掛け合いが続く。一瞬の静けさの後、「あああああ」というあの叫びが出た。

 人間の観点からは、何もかもイヤになった時に発する声を思い出すが、お客さんは大喜び。ケイジもドヤ顔だ。この後、叫びが続くことも、逆に鳴かなくなることもあるというが、取材に訪れた12日は週末で園内はにぎわい、ケイジの雄たけびは続いた。「追っかけ」のような常連もいて、イケメンゴリラのシャバーニにも負けない人気だ。

 叫びは、縄張りを主張したり、仲間とコミュニケーションを取るためという。飼育員の君島久恵さんによると、声が大きいオスは強い存在で、メスへのアピールも絶大。グレープフルーツ大に膨らむのど袋を使って発する声は、2キロ先まで聞こえるといわれる。