神奈川県座間市のアパートで9人の切断遺体が見つかった事件。死体遺棄容疑で逮捕された無職白石隆浩容疑者(27)は、ツイッターを使い、「#自殺」などのキーワードで自殺希望者を物色していたとみられる。自殺サイトなどに詳しいフリーライター渋井哲也氏(48)に、SNS上で一緒に自殺する人や相談相手を探す利用者らの実情について聞いた。白石容疑者が「首吊り士」など複数のツイッターアカウントを使っていたことが同日、捜査関係者への取材で分かった。
「首吊り士」。白石容疑者が自殺願望のある女性たちを誘い出したとみられる複数のツイッターアカウントの1つが判明した。プロフィルには「首吊りの知識を広めたい」と書かれていた。なぜ、誘い出されてしまうのか。ネット上で自殺願望を示す人たちに取材を重ねてきた渋井氏は「年齢は10~30代が中心で8割が女性。一緒に自殺してくれる人を探す彼女たちの多くは自殺未遂を繰り返している。『次は確実に』と思うから、そういう情報や道具を持っている人を探している」とみている。
ネット上に「自殺したい」と書き込む人と、「#自殺募集」と仲間を探す人では、置かれた立場が違うことが多いという。「『自殺したい』は、現実世界に相談できる相手がいる人も書き込む。『募集』の人は、現実に相談相手がいない人が多い」。
自殺防止のNPOや行政の相談窓口もある。しかし「きちんとした窓口ほど、返事に時間がかかる」(渋井氏)。自殺衝動が高まってしまった時には待っていられない。今、助けてほしい。そんな人たちが同じ思いの人とすぐ連絡できるツイッターにすがっている。
その弱みにつけ込み、ナンパ目的で近づく人もいる。「ナンパ師には路上もネット上も同じで、どれだけ相手との共感を装えるか。白石容疑者も『一緒に死にますか』と言っている。弱っている側は共感してくれる相手なら現実に会うことへのハードルが低くなる」。
今、自殺願望のある人やその周辺の人に聞いてほしいことはないか。渋井氏は「自殺願望がある人は、身近な大人10人に声をかけ、聞いてくれる人を2~3人見つけられたらラッキーくらいの気持ちで、相談してみてほしい」。両親や周囲の人には「否定せず、聞いてほしい。聞いて受け止めきれないなら、現実でもネットでもいい。受け止められる人を一緒に探してあげてほしい」と訴えた。【清水優】
◆渋井哲也(しぶい・てつや)1969年(昭44)10月17日、栃木県生まれ。フリーライター。東洋大法学部卒業後、長野日報社を経て、東洋大大学院博士前期課程修了。若者の生きづらさを主なテーマに、自殺や家出、援助交際、少年犯罪、いじめ、教育問題、ネットコミュニケーション、ネット犯罪などを取材。「自殺を防ぐためのいくつかの手がかり 未遂者の声と、対策の現場から」(河出書房新社)などの著書がある。