写真館ができること、頑張ります-。振り袖販売・レンタル業者「はれのひ」の突然の営業停止で、成人式で晴れ着を着れなかった女性が多数出た東京都八王子市の女性写真家が、被害者を対象に振り袖姿の記念写真を無料で撮影する。サービスを決意したのは、成人式当日も被害者の対応に奔走したフォトスタジオ・プライム代表の河村優子さん(43)。呉服店や美容師ら有志の協力を受け、着物代、着付け、ヘアメーク、撮影料を無料とし、「笑顔の1枚」をプレゼントするつもりだ。

 河村さんは「私もたまに成人式のアルバムを開きます。そこには二十歳の私がいて、感じるのは親の愛です。だから、決めました」と話す。サービスの対象は、はれのひの被害者で、自前の振り袖が返ってきていない人や、晴れ着が着れずに式に出られなかった人だ。2月末までの平日、着物代、着付け、ヘアメーク、撮影料で通常は3万~5万円だが、無料にする。

 河村さんは家族写真を中心に撮影している写真家で、昨年東京都写真館協会コンテストで最高賞の都知事賞を受賞した実力派。母と妹は美容師で、8日の成人式当日も母が着付け、妹がへアセット、河村さんがメークと撮影を担当し、30組の予約客に対応していた。セットをしていた予約客の1人から「友だちがパニックになっている。今から振り袖、借りれますか」と相談され、はれのひが招いた事態を把握したという。

 次々と被害者からの電話が入り、予約客の合間を縫って被害者5組に対応することができた。「1人は、親御さんが20年前、娘さんが生まれた時に成人式のために買っておいた着物を式の2日前にはれのひに預け、返ってこない。本当にひどい」。先祖代々伝わる大切な着物を預けた人もいるという。

 成人式の後で、多くの被害者が晴れ着を着れず、式にも参加できていないことを知った。写真館ができることは何かを考えた。成人式の写真館では毎年、無事に節目を迎えた子を見る親の涙ぐむうれし涙を見てきた。それが今回は違った。「写真館って、笑顔を残す場所なんです。悲しい涙はつらい。そんな親の姿を見た子も、どれだけつらいか。だから、少しでも傷がいえるように、精いっぱい頑張ります」。

 河村さんの決意に、「ただでやる心意気にほれた」と、次々と協力の声が寄せられている。地元の美容師たちはセットや着付けの申し出があり、呉服店などから匿名で晴れ着数十着の提供の連絡があった。地元の美容学校の校長からも「学生たちが手伝いたいと言っている。ぜひ手伝わせて」と申し出があった。河村さんは、2月に予定していた市内のカフェでの展覧会でも、被害者から希望があれば、晴れ着姿の写真を展示するつもりだ。「友だちとワイワイ見に来て楽しんでもらえればうれしい」。

 ひどい目にあった新成人を、このまま大人にはさせない。そんな思いでつながった仲間は、次々と増えている。【清水優】