第158回芥川賞・直木賞の選考会が16日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞は若竹千佐子さん(63)の「おらおらでひとりいぐも」(文芸冬号)と石井遊佳さん(54)の「百年泥」(新潮11月号)、直木賞は門井慶喜さん(46)の「銀河鉄道の父」(講談社)にそれぞれ決まった。

 贈呈式は2月下旬、都内で開かれる。賞金は各100万円。

 若竹さんは、岩手県遠野市生まれで千葉県木更津市在住の主婦。13年に当時75歳で受賞した黒田夏子さんに次ぐ史上2番目の年長受賞となった。デビュー作でもある受賞作は「老い」をテーマに、74歳の「桃子さん」が夫に先立たれた喪失感や孤独に向き合う姿を描く。

 若竹さん自身も夫を亡くしている。都内で行われた受賞後の会見では、夫やふるさとへの思いを聞かれ「親戚、友達も楽しみにしてくれていた。良い結果が出て、ほっとしている」と目を潤ませる場面も。選考委員の堀江敏幸氏は「東北弁の語りと標準語のバランスが良く、活気や勢い、エネルギーを感じた」と評価した。

 直木賞を受賞した門井さんは「風が来た。飛ぶだけだ。そういう気持ちです」と喜びを表現した。選考委員の投票で約7割の票を集め、文句なしの受賞。候補3作目で初の受賞となった。

 作品は、詩人・宮沢賢治とその父の関係を描いた物語。門井さんは、自身の父への思いを問われると、名前の「慶喜」は亡くなった歴史好きの父親が、江戸幕府15代将軍、徳川慶喜から付けてくれたと明かし「私は今後も歴史について描いていく。この名を父に与えられた時点で、歴史を仕事にすることが運命的に決まっていたのだと思う」と感慨深い表情で話した。

 もう1人の芥川賞受賞者、石井さんの作品「百年泥」は、インド・チェンナイで日本語教師をする「私」の語りで進む、現地で起こった100年に1度の大洪水にまつわる物語。石井さん自身の実体験がモデルになっている。同所在住のため、電話で会見に応じ「自分の能力や努力でもらった賞だとは思わない。さんざん迷惑をかけた両親に『ありがとう』と言いたい」と喜びを語った。

 一方、人気バンド「SEKAIN NO OWARI」のSaoriとして活動する、藤崎彩織さん(31)のデビュー作「ふたご」は直木賞受賞を逃した。それでも、選考委員の伊集院静氏は「非常に才能があり、感性もいい。今後、とんでもない作家になる可能性もある」と評価。また、「文学が高尚だと思わない。(今後も)さまざまなジャンルの若い人が、若い編集者と一緒になって(作品を)持ってきて欲しい」と呼びかけた。