大臣の謝罪と野党の「捏造(ねつぞう)」批判で、国会が終日空転した。

 安倍晋三首相の答弁撤回にまで発展した、「働き方改革関連法案」の柱となる裁量労働制をめぐる厚労省のデータ問題で、加藤勝信厚労相は19日の衆院予算委員会で、不適切な数値の比較があったとして、「深くおわびする」と謝罪した。立憲民主党など野党は、「捏造(ねつぞう)」「隠蔽(いんぺい)」と激しく批判。加藤氏が質問に答えていないとして、野党の一部が質疑の途中で退席し、委員会を「ボイコット」するなど、最後まで混乱した。

 裁量労働制の導入を目指す首相はこれまで厚労省のデータを根拠に、労働時間の縮減効果をアピールしてきた。しかしこの日、首相答弁のもとになった13年度の「労働時間等総合実態調査」で、一般労働者には「1カ月の中で最長の残業時間」を聞きながら、裁量労働制で働く人には「単純な労働時間」を質問していたことが判明。異なる条件で出たデータを比較し、裁量労働制の労働時間が短いことの根拠にしていた形だ。

 厚労省は、別の方法で計算すると、一般労働者の方が労働時間が長かったことを認め、調査の不適切さを謝罪。意図的ではないと強調したが、与党内でも「ずさん過ぎる」と、政権への影響を懸念する声がある。また、厚労省が今月2日までに調査の不備を把握しながら、大臣への報告は7日、首相サイドには14日だったことも判明。野党は、事態把握後も、事実関係を公表しなかった加藤氏の進退問題も追及したが、加藤氏は「精査が必要だった」として、謝罪を繰り返した。

 立憲民主党は「裁量労働制をやりたい安倍総理の意向に反するデータは出せず、忖度(そんたく)があったのではないか」と、「もり・かけ」問題との同じ構図の疑いをただす場面も。首相の肝いり法案の行方が、身内の失態で不透明になってきた。【中山知子】

 ◆裁量労働制 実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ事前に決めた分だけ働いたとみなし、残業代金を含めた賃金を支払う仕組み。仕事の時間配分を自身で決められる労働者に適用されるが、政府は対象業務の拡大を目指す方針。裁量労働制の労働時間短縮の根拠としてきた厚労省のデータに疑義が生じ、首相は14日にこれまでの答弁を撤回、謝罪。野党は、裁量労働制は働き過ぎにつながるとして、法案からの削除や、法案の今国会提出断念を求めている。