異例なまでの「証言拒否連発ショー」だった。森友学園への国有地売却をめぐる財務省の文書改ざん問題で、佐川宣寿・前国税庁長官(60)は27日、衆参両院の予算委員会の証人喚問に臨んだが、改ざんの指示など核心部分で、刑事訴追の可能性を盾に56回も証言拒否した。一方、安倍晋三首相夫妻や官邸の指示は“速攻”で否定。不可解な「二刀流」証言に加え、疑惑解明は司法に託すと開き直る場面もあった。改ざんの真相は明らかにならなかったが、与党は早くも幕引き態勢。野党はさらなる証人喚問を求める方針だ。

 「無職です」。今月9日の国税庁長官辞任後、初めて公の場に現れた佐川氏は証言席で、現在の境遇をそう語った。国税庁長官まで上り詰めたエリート街道から外れた今、安倍政権の今後を左右するかもしれないキーマンは何を語るのか-。佐川氏が選んだのは、鉄壁の「証言拒否」だった。

 佐川氏は、改ざんについて「財務省理財局の中で行った」と強調。「(国会を混乱させた)責任は(答弁時に理財局長だった)ひとえに私にある」と、謝罪した。しかし、理財局の一員だった自身の関与については証言を拒否。改ざんの経緯や動機、誰が指示したかという核心についても「刑事訴追の恐れがある」と、証言拒否を繰り返した。自身の昨年の国会答弁に関する証言にも応じず、尋問が止まる場面もあった。

 対照的に、もう1つの「肝」である安倍首相夫妻や官邸の関与については、断言調で完全否定した。首相に近い自民党の丸川珠代参院議員が、首相、昭恵夫人、総理秘書官、官邸、麻生太郎財務相などの指示について「ありませんでしたね」と確認するように次々問うと、佐川氏も「ございませんでした」とリズミカルに回答。丸川氏は「総理夫妻や官邸の関与はない証拠が得られた」と主張した。立憲民主党の福山哲郎氏が「なぜ官邸の関与だけは明確に否定するのか」と疑問を呈すると、佐川氏は「指示がなかったので、そうお答えした」と応じた。

 改ざんの背景に関し、首相が昨年2月、自身や夫人の関与があれば「首相も議員も辞める」と答弁したことの影響も、「あの答弁で私が答弁を変えた意識はない」と否定。一方、自殺した近畿財務局職員への思いを問われた際、「申し訳ないのひと言くらいないのか」と指摘されて初めて、「仮に担当職員で書き換えにつながったなら、大変申し訳ない」と謝罪した。

 希望の党の今井雅人衆院議員は、誰もが知りたい核心部分は答えず、首相夫妻や官邸の関与は明確に否定する佐川氏の「二刀流証言」を「ダブルスタンダード」と批判。佐川氏は忖度(そんたく)の有無についても「忖度は個々の内面の話」と、突っぱねた。

 答弁拒否がここまで重なるのも異例。共産党の小池晃参院議員が「これでは証人喚問の意味がない」と激怒したほど、佐川氏は証人喚問の限界も体現した。尋問の最後には「経緯や誰が指示したか答えておらず、(真相は)明らかになっていない。まさに裁判、司法(の判断)だ」と、人ごとのように開き直った。疑惑解明につなげられなかった野党議員の1人は「理財局長時代の答弁と同じ。ふてぶてしさを感じた」と、力なく話した。【中山知子】