千葉県松戸市のベトナム国籍の小学3年生レェ・ティ・ニャット・リンさん(当時9)が昨年3月、殺害され遺体で見つかった事件で、殺人と強制わいせつ致死、わいせつ目的略取・誘拐、死体遺棄の罪に問われた渋谷恭正被告(47)の裁判員裁判初公判が4日、千葉地裁(野原俊郎裁判長)で開かれ、渋谷被告は起訴事実を「架空で捏造(ねつぞう)」と全面否認した。被害者参加人として対峙(たいじ)したリンさんの父レェ・アイン・ハオさん(35)は「真実を渋谷の口から聞くことは無理かもしれない」と話した。
渋谷被告は迷彩柄のズボンに丸首Tシャツを2枚重ね着した上に、黒いジャージー姿で入廷。肩まで伸びた髪はボサボサで、厚いメガネの下の目は視点が定まっているのか分からない。上体を動かさず、ゆっくり小刻みに歩みを進め、席に着いた。罪状認否で証言台に立ち「すべて違います。検察側が言ったことは架空で捏造されたことであり、私は一切、事件に関与していません」と、高めの大きな声で無罪を主張した。
起訴状によると、渋谷被告は登校中の被害者を軽自動車に入れて支配下に置き、SM用手足錠で拘束して体をなめ、性器などに暴行を加えて損傷させた上、殺意を持って首を圧迫し、窒息によって殺害、遺体を遺棄したとしている。
検察側は冒頭陳述で、渋谷被告の軽自動車の後部座席などから複数の人間の血液が採取され、リンさんのDNA型が検出されたと指摘。渋谷被告の大型キャンピングカー内のSM用品の箱に入っていたネクタイとフェースマスクからリンさんのDNA型、手足錠からは渋谷被告とリンさんのものが混合したDNA型を検出したと主張した。
リンさんの腹部などからも渋谷被告とリンさんのDNA型が混合した状態で検出されたとし「殺害も計画性があったと考えられ、被告は否認し、反省の態度も皆無」と声に力を込めた。
対する弁護側は捜査当局のDNA鑑定の信頼性を疑問視。「注目事件で早く犯人を挙げたい重圧のあった県警が、渋谷さんが犯人との見立てに添う証拠を作っていないか」と言及し、「渋谷さんの家のゴミをあされば簡単にできる」と主張した。事件以前に渋谷被告の軽自動車にリンさんが乗ったことがあるとし、「ひざをすりむくなどしていて血液が付着した可能性がないか」とも訴えた。
渋谷被告は罪状認否の時以外は伏し目がちで、終始うつろな様子。起訴事実は否認しているとはいえ、登校時の見守り活動で顔見知りだったはずのリンさんの死を悼む言葉はなかった。
起訴事実を立証する検察側は、証拠の信頼性の説明を積みあげる方針。弁護側は「疑わしきは罰せず」を訴え、「捏造の可能性」の主張で、どこまで証拠を揺るがすことができるか。判断を迫られるのは裁判員だ。公判はこの日を含め計10回の審理を予定。14日に被告人質問が行われ、18日に結審する。【清水優】
<事件経過>
▼17年3月24日午前8時ごろ 千葉・松戸市立六実第二小3年のリンさんが修了式出席のため自宅を出た後、行方不明に。
▼26日早朝 同県我孫子市の排水路脇で遺体発見。
▼27日 茨城県坂東市の利根川河川敷でランドセル発見。
▼4月14日 千葉県警が死体遺棄容疑で同小保護者会長の渋谷恭正被告逮捕。
▼5月5日 殺人などの疑いで渋谷被告を再逮捕。
▼26日 千葉地検が殺人や強制わいせつ致死などの罪で渋谷被告を起訴。
▼11月28日 千葉地裁で第1回公判前整理手続き。
▼18年5月11日 公判前整理手続きが第6回で終了。被告が犯人かどうかが公判の争点に。
▼6月4日 渋谷被告が千葉地裁の初公判で無罪主張。