【モスクワ13日=太田皐介】ロシアで初めて開催されるサッカー・ワールドカップ(W杯)が14日(日本時間15日未明)、開幕する。世紀のイベントを直前に控えた首都モスクワには、各国のサポーターが続々と集結。地元の土産店などにとっては大きな書き入れ時だ。観光客に人気の「イズマイロフ市場」では、W杯に関連した偽物のグッズが大量に売り出されていたうえ、オフィシャルショップとの“ニアミス”も起きていた。

 旧ソ連の社会主義体制で徹底管理されたイメージのあるロシアにも、やはり「ニセ物市場」はあった。モスクワ中心部から約10キロの場所にあるイズマイロフ市場。マトリョーシカなど定番の土産品とともに、W杯関連の偽物Tシャツや帽子が大量に並んでいる。

 露店の店主ヤフシャンさん(39)が「400ルーブル(約700円)でどうだ? 350ルーブル(約610円)でもいいぞ」と、W杯ロシア大会の公式ロゴが入った帽子を勧めてきた。オフィシャル商品の約3分の1の値段だ。モスクワ州内に小さな工場がたくさんあり、大きなイベントや流行に合わせて商品が次々と製造されているという。

 市場にはFIFAのオフィシャルショップもあり、偽物店とニアミスを起こしている。オフィシャルショップの女性店員に話を聞くと「彼ら(偽物を扱う店)は危険だ。取り締まりが厳しくなっているので、見つかれば罰金か、逮捕されることもある」。3日前にも偽物Tシャツを扱う店が撤去されたばかりという。

 ただ、当の本人たちは全く動じていない。ヤフシャンさんは「Tシャツの店はバカだったんだ。立ち入り検査を行う日は事前に分かっていた。市場内のつながりは強いからね」。ロシアの人々の平均月収は首都モスクワで約12万円だが、国全体では約6万~7万円。警察も店主らの稼ぎが少ないことを知っているため、大目に見てくれることもあるという。

 イズマイロフ市場ができたのは、ソ連末期のペレストロイカ(改革)で規制が緩くなった30年前。地元住民が日用品を購入する闇市のような存在だった。当時を知る男性(55)は「何もない砂利の道で、ロシア人の職人が物を売り始めたのがスタートだった」。ソ連が崩壊し観光客が増えると、瞬く間に市場は拡大した。現在は中央アジア系の労働者を中心に、約200の土産店が構えられている。

 ヤフシャンさんは、アゼルバイジャンからの出稼ぎ労働者。妻と2人の子どもを残し、10年前からこの市場で働いている。稼ぎはいい日で1日2万ルーブル(約3万5000円)あるというが、売り上げゼロの日も少なくない。「我々にとってW杯は大きなビジネスチャンスだ」。石油、ガスなどの天然資源に依存するロシア経済は、近年の原油価格の下落を受け低迷が続く。開幕への準備が進む華やかなスタジアムの裏側で、“闇”商売の店主らにとっても大勝負の1カ月が始まる。