【モスクワ14日=太田皐介】熱戦が始まったロシアで今、一番ホットな動物といえば秋田犬(あきたいぬ)。先月26日には平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)女子フィギュアスケート金メダリストのアリーナ・ザギトワ(16)に雌の「マサル」が贈呈され、プーチン大統領の愛犬も秋田犬の「ゆめ」だ。モスクワにある秋田犬保存会ロシア支部「アキホ・ロシア」のガリーナ・セリャコワ副会長(52)に人気の秘密を聞いた。

 モスクワ郊外にあるガリーナさん宅の敷地に入ると、生後半年の「マサヨシ」と母親の「アオイ」が愛らしい表情で駆け寄ってきた。ガリーナさんは秋田犬のブリーダーとしても活躍しており、現在15頭を飼育している。私生活では4人の子どもを育てたが、「末っ子が16歳で手がかからなくなったけど、まだたくさんの子ども(秋田犬)がいるのよ」とほほ笑んだ。

 ガリーナさんによると、ロシアにおける秋田犬の人気の理由は「環境への適応力」だ。氷点下60度まで下がることのある地域でも生活ができるたくましさ。愛猫家が多いロシア人にとって、猫との相性の良さも大きなポイントだ。極東で暮らすロシア人の間では、秋田犬の子犬を購入するための日本ツアーもある。

 ただ、今でこそロシアでの知名度も高く人気の秋田犬だが、ほんの数年前までは無名の存在だったという。

 ガリーナさんが秋田犬と出会ったのは16年前。モスクワ市内から現在の住居に引っ越す際、「家が広くなるから珍しくて大きな犬を飼いたい」という思いで秋田犬に目をつけた。ただ、当時ロシアにいた雌の秋田犬は3頭。飼い主に連絡を取り8カ月待ったが子犬は生まれず、隣国のウクライナで偶然生まれた秋田犬を飼うことになった。08年の記録でも、ロシア全体で150頭しか飼育されていなかったという。

 その後、ロシアでの秋田犬の周知を広げるため、アキホ・ロシア現会長のレオニード・トレチャコフさんらとファンクラブを設立。秋田県大館市で行われる秋田犬の展覧会にも参加し、12年6月に「秋田犬保存会ロシア支部」として正式に認定を受けた。

 忠犬ハチ公をモチーフにした映画「HACHI 約束の犬」の公開や、東日本大震災の支援に対するお礼として、秋田県からプーチン大統領に贈られた「ゆめ」の存在も、知名度の上昇を後押しした。現在は「把握できないくらいたくさん」の秋田犬が、ロシアで飼われているという。

 ガリーナさんは現在「マサル」の飼い主になったザギトワの両親と電話で連絡を取っており、マサルが生後半年を迎えるタイミングで調教師を紹介する約束をしたという。

 ザギトワ本人とはまだ直接話していないが「テレビでマサルと接している様子見ると、心配なさそう。忙しいと思うが、たくさんの愛を持って接して欲しい。秋田犬は、飼い主が本当に愛していれば認めてくれるわ」とエールを送った。