サッカーワールドカップ(W杯)日本代表初戦(対コロンビア)の開催地サランスクでは、日本人サポーターを迎える態勢が整っていた。16~25歳のボランティア40人が日本語を猛勉強。今回のW杯で試合が行われる11都市の中で、最も小さな規模の街が「おもてなし」の心で歓迎する。市ボランティア育成センター長のコマロフ・キリルさん(29)によると、日本人サポーターを驚かせるサプライズも用意しているという。
「こんにちは、サランスクにようこそ」。市中心部にあるボランティアセンターを訪れると、若いボランティアたちが気持ちの良い笑顔と、ハキハキした日本語で迎えてくれた。キリルさんも「準備は出来ている。あとは日本の皆さんが来るのを待つだけ」と楽しみにしている様子だった。
「市民ボランティア向け日本語講座」を受講したのは、元々日本語の勉強をしたことがあるか、日本文化に関心のある若者40人。ロシア国内で日本関係の事業を行う拠点の「日本センター」から講師を招き、基本的な日本語を学んだ。
講座は4~5月の土日、計8回(1回2時間)のみ。会社員や学生が多く、これが限界だった。時間確保が難しく、40人は自発的にSNSでグループを作成。日本語を勉強できるサイトや動画の情報などを共有した。リーダー格の会社員、アレクシェイさん(24)は「途中からは講師の先生にもグループに入ってもらった。毎日質問が飛び交い、全員がとても前向きに学んでいた」と振り返った。
講座の最終回では、約300キロ北に位置するニジニーノブゴロドの同センターから、職員の浜田韻史(あきふみ)さん(33)が訪れ、街を案内する実技を行った。浜田さんは「時間も短く心配していたが、あいさつや道案内など、しっかりできていた」と好評価。40人はW杯期間中、空港や市の中心部、スタジアム周辺などに立つ予定だ。
サランスクでは約31万人の人口に対し、2324人がボランティアとして大会をサポート。市の歴史上最大のイベントで、キリルさんが最も重要視したのは「I don’t know(分かりません)」を言わないことだ。「携帯電話の翻訳機能を使っても、他の仲間に助けを求めても良い。サランスクに来た人々が、自分の家にいるような雰囲気をつくりたい」と意気込んだ。
さらに、日本人サポーターへのサプライズも予告。詳細を明かさなかったが、「きっと喜んでくれるよ」とほほ笑んだ。日本人をもてなす準備は整った。【太田皐介】
◆サランスク モスクワの南東約640キロにある、モルドビア共和国の首都。市内をボルガ川支流のインサル川が流れ、地元民族の言葉で「沼のある所」を意味する。ケーブルや照明産業が盛ん。中心部には、06年に完成した聖フョードル・ウシャコフ大聖堂や博物館、劇場などが密集。中心部からスタジアムは、徒歩15分ほどの距離。2月完成の新空港は、約10キロ郊外にある。地元の肉料理で「熊の手」が有名。モルドビア共和国は旧ソ連の共和国で、独立したモルドバとは別。