サッカー・ワールドカップ(W杯)に沸くロシアだが、市民の間にはプーチン政権に対する不満もくすぶる。開幕前最後の日曜日となった10日には、モスクワの中心部で反政府デモが行われた。汚職や政権の強い圧力を糾弾するスピーチは約3時間にわたったが、全体的には盛り上がりに欠ける内容。ロシア国内には不満を抱きつつも安定を望む、現政権の「消極的支持者」が増えているという。
「権力による圧力をやめろ」。訴えがむなしく響いた。デモは日曜の昼間、アクセスの良いモスクワ中心部で行われたにもかかわらず、参加者は警察発表で1700人(主催者発表3000人)。後半には強い雨が降り始め、人はまばらになった。最後まで残っていたのは500人ほどだった。
プーチン氏が再選した大統領選の結果(得票率76%)を受け、先月5日にはロシア全土で大規模デモが行われた。反政府的な活動として計1000人超が拘束され、野党指導者も取り押さえられた。このデモは多くの場所で無許可で行われていた。今回の参加者によると、この日は当局の許可を得たデモで警備の目も多く、逆に人が集まらなかったという。
だが現実的には、現政権は無風状態だ。80年代後半、ペレストロイカ(改革)後の深刻な物不足からソ連崩壊など、苦しい時期を知る国民は変化も恐れている。プーチン政権を積極的には支持しないが、消去法的に安定した現政権を支持する「消極的支持」が広がっているという。
デモに参加した大学職員のナタリアさん(63)は「ソ連時代が全て悪かったとは言わないが、苦しい時期だった。政権に近い人だけが得をする今の状況は許せないけど、すぐに何かが変わるとは期待していない」。ロシア統一民主党「ヤブロコ」に所属するマリナさん(46)は「今は我々野党が、もう1つの選択肢を示せていない」と認めた。
若者の間では、同年代の政治意識の低さを指摘する声もあがる。モスクワでのデモには全て参加しているという大学生のアルチョムさん(19)は「大統領選の結果には失望した。みんな無関心なんだ。何も変わらないと思っている人が多い」と嘆いた。
00年に始まったプーチン氏の長期政権は、24年まで続く。デモ会場には、サッカーボールの絵とともに「ロシアでは別の大会(政府の抑圧)が行われている」と書かれた旗も。「W杯は、世界にこの国の現状を知ってもらういい機会だ」。各国サポーターが続々とロシア入りする中、デモ参加者はどこか冷めた声でつぶやいた。【太田皐介】