2020年東京オリンピック・パラリンピック調整会議が12日に都内で行われ、東京五輪聖火リレーの出発地点を福島とし、20年3月26日にスタートすると決定した。47都道府県を121日間で回る。大会組織委員会は「復興五輪」を強く意識し、東京電力福島第1原発事故で現在も4万人以上の避難者がいる福島に白羽の矢を立てた。同県は歓迎する一方で、原発立地町の大熊、双葉両町は大部分が帰還困難区域で人が立ち入れないなど、復興を世界に発信するルート選定には知恵を絞る必要がありそうだ。

 日本に五輪を招致した原点に立ち返った。11年3月11日の東日本大震災を受け、石原慎太郎都知事(当時)が同7月に立候補を正式表明した際に「復興五輪」との考えを示した。あれから7年余り、組織委の森喜朗会長は「常に被災地のことを考えてきた。被災3県以外にも被災地は茨城、千葉と広くあるが、とりわけ福島が避難者が多く苦労されている」と出発地を選んだ理由を語った。

 1964年(昭39)の東京五輪でスタート地点だった沖縄(当時は返還前)や、福島以外の被災地も今回の出発地として検討された。それでも13年9月7日、アルゼンチン・ブエノスアイレスの国際オリンピック委員会(IOC)総会で安倍晋三首相が「アンダーコントロール」と世界に発信し、原発事故の苦難と現在も闘う福島を「復興五輪」の象徴として選択した。

 福島から宮城、岩手に北上しなかった理由について布村幸彦副事務総長は「季節的に比較的温暖な太平洋側を南に下った方が良いということも含め、福島を出発にした」と説明した。

 福島の内堀雅雄知事は「震災から10年たった福島が復興へ前進している姿を発信したい。復興五輪にふさわしいスタートにしたい」と歓迎した。同県オリパラ推進室の担当者も「出発地は想定していなかった。スタートとなると重要で、また難しい」とうれしい悲鳴だった。

 具体的なルートは各自治体が実行委員会を設置し、検討するが、原発事故の被災地として復興を世界へ示すのには課題は多い。沿岸部の浜通りや、避難指示が出た自治体など15市町村から今年2月、聖火リレーが通るよう内堀知事に要望したが、放射線量が高く、いまだ人が立ち入れない帰還困難区域が大熊、双葉、浪江町などにまたがっている。担当者は「ランナーだけでなく観客も入れない地域だが、地元の方には故郷を見てもらいたいという思いがある。苦慮するところだ」と悩ましく語った。

 各自治体は年内をめどにルート案を組織委に提出。それを集約し、IOCの了解を得て、正式決定となる。コース発表は来春~夏ごろになる見通しだ。【三須一紀】