安倍晋三首相は12日、山口県長門市で父の故晋太郎氏の墓参りを行い、自民党総裁選(9月7日告示、20日投開票予定)での3選にあらためて意欲を示した。国会議員票で7割以上を固めて優勢とされるが、今回求められるのは現職らしい「圧勝」だ。一騎打ちが濃厚な石破茂元幹事長には前回、地方票で大敗している。勝ってもその「質」が求められており、勝ち方の内容次第では今後の求心力が左右される可能性もある。意外に難しい戦いなのだ。

 前日から地元山口入りしている首相は12日、父晋太郎氏の墓前で手を合わせた。終了後、「私の初陣(93年)は、この墓前での父への勝利の誓いからスタートした」と原点回帰を強調。「初めて選挙に挑戦した時の思い、6年前(総裁選に)挑戦した時の志はみじんも変わらない」と訴えた。

 首相は現在、党内7派閥中、5派閥と衆院竹下派の支持を固め、国会議員票で7割以上を押さえ優勢とされるが、党関係者は「前回のような勝ち方では現職首相として許されない。圧勝が求められる」と話す。

 前回の総裁選で首相は、第1回投票で国会議員票で石破氏(34票)を上回る54票だったが、地方票はダブルスコア近い差をつけられた(87票と165票)。国会議員による石破氏との決選投票で108票対89票と勝利したが、石破氏を選んだ地方の声が最終結果に反映されていないとして、地方票も議員票と同数の405票へ、総裁公選規程の見直しに発展。実質的に初適用となる今回から、地方票は前回より重みが増す。

 首相陣営は、前回石破氏に負けた地方票の対策を本格化。地方票は議員票より「民意」に近い。今回も地方票で負けたり小差なら、来年の統一地方選や参院選に暗雲がたれ込める。「国会議員、地方ともに支持された『強い総理総裁』でないと、勝っても求心力を保てるか分からない」(永田町関係者)。1強といわれる以上は、勝利の量も質も求められているのだ。

 首相は11日の会合で、体調不良で退陣した第1次政権を「(議員生活25年で)一番苦しかった。自信も誇りも砕け散った」と振り返った。そこからはい上がって総裁に返り咲き、前回15年は無投票再選だった。石破氏との一騎打ちが見込まれる今回は、「首相の地力が試される」との声もある。10日の出馬表明で先手を打ち、首相との論戦の機会を探る石破氏の“挑発”には乗らず、首相の出馬表明は告示前ぎりぎりの、8月下旬以降になるとみられている。【中山知子】