6日未明の北海道の地震から5日目となった10日、最大震度7を記録した北海道厚真町では、大規模な山の崩落で川がせき止められた「河道閉塞(へいそく)」が無数に発生し、連日の雨で「土砂ダム」が形成されつつある。裏山の川がせき止められている厚真町富里の農業山口清光さん(81)は、避難所から自宅に戻り「大事なものだけでも」と位牌(いはい)などをあわただしく回収した。国交省によると、町内では富里地区の上流の幌内地区で大規模な土砂ダム形成の恐れもあり、対策を急いでいる。

厚真町の崩落した山々には連日、冷たい雨が時折激しく、降り続けている。多くの犠牲者が出た富里地区の山口さんは、雨脚が弱まった昼過ぎ、避難所から車で自宅に戻った。「裏の川が詰まってる。あふれて崩れる前に、大事なものだけ取りに来たんだ」と、あわただしく家の中に入っていった。

山口さん宅の裏山の沢も、大量の土砂で埋まった。自宅裏の水田を埋め、家の数メートルまで崩れ落ちてきた土砂は、上流まで見通せないほどの量で、沢を埋め尽くしている。「流れるべきところに水が流れていない。上のどこかにたまっている。どこから崩れるか分からない」。隣に住む松平(まつひら)久雄さん(69)も危機感を募らせる。

松平さん宅は、7月6日の豪雨で裏山が崩れたばかりだった。「なんとか片付いたばかりだったんだ」。集落では、いつも何かあれば自然に集まり、助け合っていた。今回の地震では、7月に手伝ってくれた隣の吉野地区の友人らが、土砂崩れで亡くなった。「山は台風の風から家や田んぼを守ってくれる。俺たちは山に守られて生きてきたんだ」。しかし、震度7の強烈な揺れは過去にない事態を引き起こした。

いつ崩れるか分からず、松平さんは家族3人で避難所に移った。ただ、妻がかわいがっている猫4匹の世話のため自宅に通っている。「孫がいないから子どもみたいでかわいいのさ」。クロ、コリン、チャコ、コナツ。4匹とも子猫の時に捨てられていたのを助けた猫たちだ。「大事な家だ。土砂ダムが崩れる前に水だけでも抜いてほしい」。

厚真町役場に前線本部を置いた国交省担当者によると、町内の河道閉塞は「何十カ所どころではない。詳細には把握しきれていないが、無数にある」と話す。厚真川の上流域の富里地区の、さらに上流の幌内地区では「支流の日高幌内川で大規模閉塞がある」。空撮などの調査では、今のところ崩壊の危険のある土砂ダムは確認できていないが、「今後、大雨が降れば危険が高まる」。同省では、下流域に集落のある閉塞部などを中心に調査を急ぐ。【清水優】