史上最年少プロ棋士、藤井聡太七段(16)が10日、大阪市の関西将棋会館で指された第49期新人王戦決勝3番勝負の第1局で、プロ棋士養成機関「奨励会」の出口若武(わかむ)三段(23)に先勝し、最年少の新人王獲得に王手をかけた。同棋戦の参加資格は六段以下のため今年、四段から段位を3つ上げた藤井にとって今期の新人王がラストチャンス。17日の第2局に勝てば、今年2月の朝日杯将棋オープン戦に続く2度目の一般棋戦優勝となる。

おやつタイムのショートケーキにも目もくれず、攻めた。前傾姿勢で盤を見つめ、体を前後に揺らす。堂々とした指し回しで、相手を投了に追い込んだ。

新人王に王手をかけた藤井は「きょうは非常に大きな一局だと思っていた。途中で苦しくなった場面もあったが、粘り強く指せたのがよかった」。初めての番勝負にも冷静に臨み、流れを引き寄せた。

わずか1年7カ月で、五段、六段、七段と異例のスピードで3段階の昇段を実現したため、若手棋戦の参加資格から次々とはずれた。新人王戦の参加資格は六段以下。今期の新人王戦がラストチャンスとなる。

新人王戦の歴代優勝者には羽生善治竜王(48)、渡辺明棋王(34)らがいて、トップ棋士への登竜門として知られる。藤井が優勝すれば、森内俊之九段(48)の17歳0カ月の最年少新人王記録を更新する16歳2カ月、31年ぶりの更新となる。

藤井にとっては、もう2度と挑戦することができない新人王のタイトル。将棋と学業。生活の充実も高校生プロの優勝を後押しする。今春から名古屋大学教育学部付属高校に進学した。

藤井は言う。「中高一貫校なので、あまり変わったところもなく、今まで通りです」とし、両立についても「中学のころと同じように取り組めています」。師匠の杉本昌隆七段(49)も「見事に両立してくれているなと思います」と目を細める。

対局後、藤井は同会館で行われていた大盤解説会に登場した。大きな拍手とともに、大阪のおばちゃんからの「かわいい~」の声援には照れ笑い。17日の第2局も大盤解説会が行われる。「第2局も落ち着いて、時間の配分にも気を付けたい」。新人王獲得まであと1勝だ。【松浦隆司】

◆新人王戦 若手プロ棋士や奨励会三段らが対象。六段以下のプロ棋士や三段、女流棋士らが参加する8大タイトルとは別の一般棋戦の1つ。トップ棋士への登竜門として知られる。羽生竜王の新人王獲得は18歳1カ月、渡辺棋王が21歳5カ月だった。