約2年の移転延期を経て、豊洲新市場(東京都江東区)が11日午前0時、ついに開場した。築地市場(中央区)が6日午後0時に営業を終了し、わずか4日半で大引っ越しを完了。豊洲が「日本の台所」と再び呼ばれるため、市場業界は一からのスタートとなる。営業初日は大渋滞や、ターレ(自動運搬車)の火災や事故、競り場の温度上昇など、トラブルも相次いだ。

誰もが築地への郷愁を感じながら、豊洲に向かい合った。競り開始前の午前5時すぎ、大都魚類株式会社の網野裕美社長があいさつ。「築地への名残惜しさを振り切り、こちらに来た。築地を上回る豊洲ブランドをつくり100年続く市場にしたい」と熱く語った。

午前5時30分、マグロの初競りが開始。鈴の音と威勢良い声が新市場に命を吹き込んだ。豊洲初の一番マグロは214キロ428万円(キロ単価2万円)の青森県三厩(みんまや)産。関係者は「普段は1キロ8000円ほど。正月ほどではないがご祝儀相場」と語った。青果棟では長野県辰野町のマツタケが1ケース30万円で競り落とされた。築地の最後では8万円だった。

活気づく新市場だが混乱もあった。ターレが女性に接触し、救急搬送される事故や、電気系統が焼け切れ出火するターレもあった。

築地と比べ使い勝手の悪さが気になった関係者が多かった。青果仲卸業者は「店によって通路の広さが違う。広い通路前の店舗は荷物置きにそのスペースを使う。狭い我々は不公平さを感じる」と首をかしげた。

低温管理が売りの閉鎖型市場のはずが、マグロの競り場では室温が上がり、冷凍マグロが溶け出した。豊洲市場協会の伊藤裕康会長は「冷房のファンの向け方、マグロを並べる時間など工夫する必要がある」と改善点を語った。

水産仲卸業者「大芳」の宇田川浩社長は「横動線が縦動線になりやりづらさはあるがやるしかない」。競り場、仲卸売り場、事務所、積み荷場などが平面にあった築地だが、豊洲では4階構造で行われる。

深刻なのが市場周辺の渋滞だった。江戸川区の八百屋の主人は「築地の頃より1時間30分早い午前3時に起きたが30分以上、駐車場が空くのを待った。今後、客が減るんじゃないか」。伊藤会長も「環状2号線が開通しただけでは渋滞解消は難しい」と悩ましかった。「晴海通りが混雑しています。佃大橋、レインボーブリッジに迂回(うかい)してください」との場内放送が頻繁に流れた。

年間で92億円の赤字が見込まれる豊洲市場だが、都はその穴埋めに、具体案が決まっていない築地再開発の賃料などを検討。世界ブランドを再構築するには、豊洲と築地の両輪を回す必要がある。【三須一紀】