油圧機器メーカーのKYBは19日、免震・制振装置の検査データ改ざん問題について、都内の国土交通省で会見し、不正や不正の疑いがある装置が使われている物件のうち財務省本庁舎や大阪府庁本館など70件の建物名を公表した。病院や民間商業施設、マンションなどの物件名は一切公表されず、一般市民の不安は解消されないまま。16日には全国で986件としていた物件数だが、国の基準値内の操作も含めて、数字を改ざんした件数が1095件に上ることも明かした。
「恥ずかしい話、住所が分かる公共団体から始めて、民間施設は間に合わなかった」。16日からの時間のなさを訴え、KYB斎藤圭介専務はそう謝罪した。この日、現在工事中の物件1件を追加し、不正や不正の疑いがある装置が使われている建物は全国987件に及んでいるが、公表されたのはわずか70件。役所の庁舎ばかりだった。中には東日本大震災後に建てられた、岩手・陸前高田市消防防災センターも含まれていた。同社によれば庁舎は全体でわずか110件で、民間施設が圧倒的に多い。今後、多数の人が集まる病院や商業施設に物件名の公表や今後の工事計画を相談する。
住民が不安を抱え、最も物件数が多いとされるマンションへの着手はその後。住民からの問い合わせに答えられておらず、斎藤専務は「電話がパンク状態だが、人を増やして対応したい」と述べた。マンション購入を検討している人にとっても待ったなしの状況で「不安が広がるので対応を検討したい」と話した。
改ざん前の数値が基準内に収まっていたとして公表していなかった物件が、新たに108件判明。東京スカイツリーも同区分に入るという。基準値内とはいえ、数字を操作し、印象を良く見せた過程は、他社との競争関係においても不適切だが、「伏せて何かしようと思ったわけではない。問題がないので公表しなかった」と説明した。不正を報告した社員は依願退職をしたという。改ざんを行っていた社員の処分は今後、社内で検討する。
KYBと子会社は、地震の揺れを抑えるオイルダンパーと呼ばれる装置の性能検査で、国や顧客の基準に適合しなかった製品データを基準内に収まるよう操作していた。不正の疑いがある1万本もの対象ダンパーを全て交換するには生産量を5倍に増やして対応しても最短で20年9月までかかる計算になる。【三須一紀】
◆免震・制振装置 地震の際に建物の揺れを抑える装置で、油の粘性を利用して伸縮するオイルダンパーと呼ばれる機具を建物の地下や地上の各階に取り付ける。免震用は国土交通省の認定制度があり、性能検査の基準値からプラス・マイナス15%以内を許容範囲としている。制振用は認定制度がないが、10%以内のずれを認める顧客が多い。KYBと子会社は、免震用でプラス側に42・3%ずれたダンパーも、数値を改ざんして出荷していたことが分かっている。