今から29年前。平成が始まった1989年の11月4日、オウム真理教による坂本堤弁護士一家殺害事件が起きた。教団は6年後の95年3月20日、死者13人、負傷者5800人以上の被害者を出した地下鉄サリン事件を起こした。起訴された17事件中、13事件で27人を死なせたとして死刑判決を受けた松本智津夫元死刑囚(63=教祖名麻原彰晃)の死刑は今年7月6日、執行された。坂本弁護士に代わり、平成の30年間を通して教団と闘い続ける滝本太郎弁護士(61)は今、何を思うのか。滝本氏に聞いた。

松本元死刑囚の死刑執行の翌日、滝本氏は教団を離れた四女の代理人として東京拘置所に入り、四女と共に遺体と対面した。松本元死刑囚が遺体の引き取り手に四女を指名したからだ。

滝本氏 麻原彰晃ではなく、松本智津夫だなぁと感じました。煩悩に悩まされていた人だけど、毒気が抜けて。煩悩をなくした1人の人間の遺体でした。

四女との付き合いは10年ほど。代理人となり、遺体の引き取りを求めてきた。

滝本氏 四女の相続人から両親を除外する申し立ても昨年9月、横浜家裁に認められました。この審問のために代理人として拘置所にも行きました。彼には会えませんでしたが、私名義の書類も何度も送っていた。彼にとことんにらまれ、サリン、VX、ボツリヌス菌で4回狙われた私が代理人です。四女の立場も確実に認識していたはずです。指名が実現した時には、感動しました。

松本元死刑囚の遺体は7月9日に火葬され、遺骨は東京拘置所に保管されている。妻と二女、三女、長男、次男側は連名で遺体の引き渡しを法相に要請している。四女と滝本氏は、信者には特別な意味を持つ遺骨について、太平洋のいずれかの洋上に国が散骨するよう求めている。

滝本氏 実際、今、危ないですから。執行後、ツイッターで「殺しに行くぞ」という書き込みもありました。ウサマ・ビンラディンも米海軍上層部だけの立ち会いで水葬にされた。日本で前例はなくとも、前例のないことをやってきたのがオウム真理教事件です。四女も私も、1日も早く、平成のうちに散骨してほしいと思っています。【清水優】