宇宙新時代が到来する。平成とともに産声をあげた日本人宇宙飛行士と、宇宙飛行「史」。平成30年間を宇宙挑戦にささげ、宇宙を歩んできた。今年12月下旬から国際宇宙ステーション(ISS)で、3度目のミッションに臨む宇宙飛行士・野口聡一さん(53)が、平成という時代の宇宙開発、来る新時代と未来を熱く語ってくれた。

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--今年12月下旬に3度目の国際宇宙ステーション(ISS)で長期滞在される予定です。ミッションは

野口さん 新しい新時代に入ります。1回目がスペースシャトル、2回目がソユーズ。今回は初の民間宇宙船で行く予定です。前澤(友作)さんが乗る予定のスペースXなどが試験飛行を開始して我々、プロの宇宙飛行士も民間を生かしていく時代になります。

--1回目は日本人初の船外活動、2回目は初のISS長期滞在、宇宙船の操縦作業、山崎直子宇宙飛行士とISS合流。野口さんは、「初物」が多い

野口さん 巡り合わせですね(笑い)。最初がスペースシャトル、今回は民間ベースで宇宙開発が盛んなアメリカで民間の会社が作る宇宙船。また振り子が戻った感じ。アポロの月面着陸から50年。特にアメリカを中心に国策主導、国家の一大プロジェクトとして宇宙に挑戦してきた。これからは宇宙にも市場原理が持ち込まれる。マーケットとしてペイするから宇宙に行く時代へ。民間企業の宇宙開発も単独で成り立つ。(新型有人宇宙飛行船で)前澤さんのように挑戦できます。

--ジェット機で海外に行くように宇宙へ行ける

野口さん おっしゃる通り。

--平成元年に秋山豊寛さんが宇宙飛行士として訓練をスタート。平成時代に一番記憶に残っていることは。

野口さん 昭和の時代にはなくて、平成の時代に誕生したのが宇宙飛行士。すごく覚えているのは毛利衛さんのフライト。宇宙空間でリンゴをむいたりとか、宇宙空間からの映像が古い言い方になりますが(笑い)、お茶の間へ普通に伝わる時代になったことでした。

--宇宙飛行士への現実的チャレンジはいつごろから

野口さん 宇宙飛行士になっているから言えるんですけど(笑い)。81年スペースシャトル1号機のフライト。16歳の春でした。アポロの月着陸はリアルタイムじゃなくて教科書の中の出来事だったのが、学校から家に帰るとテレビの画面にスペースシャトルが打ち上がっていた。あの日から職業として考えていた。高校の進路相談で「将来、何やるか考えろ」と言われて「宇宙飛行士やります」。これは(進路指導の)記録に残っています(笑い)。

--平成の30年間で最も進化しているのは

野口さん ITです。我々が使うパソコンは当時、マイコンと言ってましたけど(笑い)。ひたすらキーボードで打ち込むことからグラフィックなものになり、今やタブレットになり、手のひらで操作して世界中とつながる。通信速度の向上が宇宙でもそのまま生かされている。最初のころは訓練初日に教科書を大量にバサッともらった。今はタブレットをぽんと渡されて「それを見ろ」と。逆にセキュリティーに関する講習を受けます。最初のころは何百冊ものマニュアルを渡されましたが、チェックはうるさくなくて、その気になれば世界中の情報が分かった時代でした(笑い)。

--欧米や日本でも機密上、使用制限されたスマートフォンメーカーもあります

野口さん まさにそんな感じです(笑い)。

--衣食住の進化は

野口さん 宇宙食は意外なことにホットな部分です。最初の頃はサバイバルな食べ物でチューブ入り、水やお湯を入れて戻していた。今は食で文化を伝える時代になった。宇宙カレーや福井県の女子高校生たちが作ってくれた「サバの缶詰」を準備をしています。高校生が作ってくれた日本食を宇宙で食べるということはすごい進歩。平成の30年間で宇宙食は機能性の分野で大きく進みました。

--衣類の進化は

野口さん 2000年代から急激に進歩しました。なぜかというと半年間も宇宙にいるのが普通になってきたから。口臭などを抑え、菌の繁殖を抑えること。それとなるべく宇宙に持っていく衣類の数を減らすこと。1週間使用しても臭わないものや、ばい菌が増えない繊維が増えた。今回は初めて日本のアパレルメーカーさんの協力を得て、本気でデザインすると、どうなるのか挑戦します。

--長期滞在のストレスを減らすような、ちょっとした遊び心の部分ですか。

野口さん そうです! 無重力状態でデザインに遊び心を入れるとどうなるのか。我々もあまり考えてこなかったが、デザイナーの方とお話しし、環境を考えながら、デザインしてもらう。

--住環境はいかがですか

野口さん 実は肩こりなんですが、肩こりはなくなります。無重力で重たい頭蓋骨を支えなくいいので肩と腰の痛みはなく、血液が移動して普段は足にある血液が全身に行くのでウエストが細くなりますよ(笑い)。また運動器具が、この10~15年ぐらいで良くなった。前回の時にルームランナーが新型になり、筋力トレーニングマシンが常備されたおかげで運動の質が良くなりました。運動器具が非常に向上しているので今は実際に半年間で筋肉量がすごく減ったとか、骨がもろくなって非常に問題を抱えている宇宙飛行士は少ない。

--宇宙飛行士の尿は再生利用されていますが、その進化はどうですか

野口さん 大きなニュースがあります。水の再生における環境技術は日本が進んでいます。実は再生処理装置はアメリカ製しかないんですが今回は日本のメーカーの再生装置が私のミッションでは使われるかもしれない。期待してます。

--前回2度目のミッション中に45歳の誕生日を迎え、今回は55歳のバースデー

野口さん そういう経験をできる人はいないし2回目になると得した気になる(笑い)。(宇宙なので)その分はカウントしないでいいんじゃないかと(爆笑)。

--日本人宇宙飛行士として最年長記録です。

野口さん 各界のレジェンドと言われるスキージャンプの葛西紀明選手、サッカーのカズ(三浦知良)選手とか。そういう人たちに負けないよう。宇宙飛行士界のレジェンドとして期待されるように。まだまだ、おじさん頑張ってます。105歳まで飛ぶつもりです(笑い)。【大上悟】

 

○…野口さんは野球ファンとしても知られる。「小学校1年から中学まで野球やってました」とボールを手に満面の笑みだ。ファーストで4番でサウスポーは憧れだった巨人の王貞治氏(現ソフトバンク会長)と同じ。「今、アメリカのヒューストンに住んでいるのでアストロズの試合は観ます。大谷翔平君とか日本人メジャーリーガーの応援に出かけています」。来年の東京五輪へは「2020に向けて とぶぞ!」と、色紙に熱いメッセージを書き記した。「日本選手団と同じく、日本代表として任務を遂行して国民の皆さんに誇りと感動をお届けしたい」と3度目の宇宙へ向かう。