将棋の最年少プロ、藤井聡太七段(16)が16日、東京・有楽町朝日ホールで公開対局として行われた「第12回朝日杯オープン戦」で、史上2人目の2連覇を果たした。

準決勝で第1回優勝者行方尚史(なめかた・ひさし)八段(45)を下すと、決勝でも現役タイトル保持者渡辺明棋王(34)を撃破した。過去連続優勝したのは7~9回で3連覇した羽生善治九段(48)のみ。藤井は史上最年少での公式戦連覇と、またも記録に残る偉業を達成した。

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青白いほおのまま、藤井は局面だけを見つめていた。時折うなずきながら、詰み筋を確認する。決勝戦の最終盤、約750人と超満員の観衆も、目の前の倒すべき現役タイトルホルダーも関係ない。じっと集中して寄せ切り、連覇を手にした。「しっかり1手1手考えて、秒読みになっても落ち着いて指すことができた。結果を残すことができて、うれしく思います」。淡々とした表情で喜びを語った。

前回は勢いに乗った。準々決勝で佐藤天彦名人、準決勝で羽生善治、決勝は広瀬章人と、タイトル獲得経験者を破り、大きな結果を出した。今回は、ここ1年トップ棋士との壁を痛感し、課題としていた「形勢判断」の研究成果をぶつけた。

前回優勝で本戦からのシード出場だが、対戦相手はすべて現在の将棋界を代表するタイトル戦登場経験者。1回戦の稲葉陽八段は2年前の名人戦挑戦者、準々決勝の糸谷哲郎八段は5年前に竜王を獲得した。準決勝の行方も4年前の名人戦挑戦者。決勝の渡辺は棋王であり、王将戦挑戦者として現在3連勝と、奪取まであと1勝に迫っている。勝率は藤井と同じく8割を超えている。蓄えてきた今の実力を試すには、絶好の機会だった。

しかも4局とも、不利とされる後手番。午前中の準決勝の行方戦も、午後からの決勝の渡辺戦も、先手からの誘導もあって中盤でもみ合った。1手指すごとに、どちらに形勢が傾くかが読めない。先手の指し手に合わせ、押し引きをする。そのうえでチャンスをうかがい、仕留めた。

観戦していた師匠の杉本昌隆七段(50)は「辛抱する展開で、粘り強くついていった」と褒めた。ここ1年間で指し回しとして「全体的により落ち着いて指している。じれたり、見切り発車で攻めに出て行くことがなくなった」と弟子の成長した部分を認めた。

今年のサイン色紙の揮毫(きごう)は「進歩」。タイトル獲得を目指すため、自らやらなければならないことを表現している。「さらに力をつけてタイトルへと1歩でも近づけたら」。連覇劇は、頂点を目指す後押しになったに違いない。【赤塚辰浩】

◆藤井聡太(ふじい・そうた)2002年(平14)7月19日、愛知県瀬戸市生まれ。5歳で祖母から将棋を教わり地元の教室に通い始める。杉本昌隆七段門下。16年10月、14歳2カ月の史上最年少でプロ(四段)に。中学生棋士としては史上5人目。名古屋大学教育学部付属高1年。17年6月、デビューから負けなしの29連勝で、将棋界の連勝新記録を達成。15~18年、詰将棋解答選手権チャンピオン戦4連覇。18年2月、朝日杯で史上最年少の公式戦初制覇。同年10月には新人王戦も制した。順位戦は昨年から18連勝で、デビュー以来のトップタイ。

◆朝日杯オープン戦 全棋士、アマチュア10人、女流棋士3人が参加。1次、2次予選、本戦と、すべてトーナメントで行う。優勝賞金750万円。持ち時間各40分。本戦には2次予選を突破した8人と、今回の組み合わせが決定した時点でのタイトル保持者、前回優勝の藤井らシード8人が出場。

【対局VTR】

▽1回戦(稲葉陽八段) 後手番で、前例のある角換わり腰掛け銀から、急所の端攻めを敢行。稲葉山城を一気に攻略。

▽準々決勝(糸谷哲郎八段) 先手の早繰り銀&3八金の守備陣をとがめ、後手8七角の打ち捨てから猛攻を開始。左右挟撃から押し切る。

▽準決勝(行方尚史八段) 中盤まで、お互いに出方をじっくりうかがう展開。先手の行方が9筋の端歩を突いた失着をとがめ、守備の金銀をはがすと、リードを広げて押し切った。

▽決勝(渡辺明棋王) 後手でお互い雁木(がんぎ)で飛車、角、銀、歩を動き合う細かい局面で正確な対応を見せ、先手陣を攻略。見事V2達成。