平成から令和へ新たな時代に向かう中、人工知能(AI)や自動運転車の議論が高まっている。政府が来年をメドに自動運転車の実用化を目指す中、死亡事故を起こしたAIを法で裁けるかをテーマに描いた映画「センターライン」が20日、東京・池袋のシネマ・ロサで初日を迎える。下向拓生監督(31)に、映画を世に送り出した意味やAIとの向き合い方について聞いた。

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警察庁は昨年12月、自動運転実用化に対応するための道交法改正試案を公表した。公道で、一定の条件で車のシステムが運転の全ての操作を自動で行い、緊急時に運転者が操作する「レベル3」の走行を可能にする内容だ。<1>認知、予測、判断、操作を代替する自動運転システムを自動運行装置と定義<2>自動運行装置を使用した走行は道交法上の運転に含まれる<3>緊急時、手動運転への切り替え可能を前提に携帯電話の使用を禁じた規定を適用しない-などとした。3月8日には同改正案を国会に提出し同日、閣議決定された。

自動運転でカメラやレーダーなどの情報から周辺の環境を認識し、車両の加減速などを操る“脳”がAIだ。そのAIが、死亡事故を起こしたら-。

「センターライン」は、過失致死罪での立件を目指す検察官に対し、AIが「誤作動ではなく(運転手を)わざと殺した」と供述、揺れる人々の姿を描く。ソフトウエアエンジニアとして働く傍ら、メガホンをとった下向監督は「これから実際に考えないといけない問題。描きたかったのは、AIは人間の友だちであって欲しいということ」と企画の意図を語った。

世間には、急速に進歩するAIが人間の仕事を奪うのではないかと危惧する声は少なからずある。映画でもAIが自ら判断し、自動運転中に速度超過する場面も描かれるなど、AIが心を持つことが罪になるか否かが問われる。下向監督は「米国に行った際、軍事目的で使われた場合、AIに人間の命を選別されてしまう恐ろしさもあると聞いた。恐ろしい技術ではあると思う」と警鐘を鳴らした。

一方、AIを追及する検事役の主演、吉見茉莉奈(28)は「お年寄りがバスに乗る必要があるのに運転手がいない地方であれば、自動運転はあった方が良い。人間もAIに適応していくしかない」と強調した。

物語の舞台は「平成39年」。下向監督は「16年に企画、17年に撮影した時、新元号は決まっておらず、平成が続く設定にした。令和になる5月1日をもって、映画の世界は“来るはずのない未来”になる。新時代にAIが人間の良きパートナーである世界になれば」と期待した。【村上幸将】

◆センターライン 検察官2年目の米子天々音(吉見)は、希望した刑事部ではなく交通部に配属されて首を傾げつつも、前年の平成38年に死亡事故を起こしたAI「MACO2」を過失致死罪で起訴する。MACO2は法廷で、中央ラインを超えて正面衝突を起こしたのは運転を誤ったのではなく、運転手の女性を殺すための故意だったと証言。裁判の行方は-。