羽生善治九段が「昭和の史上最強棋士」の通算勝利数を抜き去った。相手の永瀬には直近、王位戦リーグ、竜王戦1組と連敗中。今期の叡王戦7番勝負に挑戦し、4連勝で初めてタイトルを獲得した若手実力者に、堂々の指し回しを見せた。

羽生九段は記録達成について「まぁ、今年に入ってからは結構、大きな目標でしたし、この前の対局は残念ながら負けてしまったので、今日、達成できて非常にうれしいです」と感想を語った。

対局前の盤外戦でも、貫禄を示した。先に入室して下座で待ち構えていた永瀬に、「そっちへ座って」と上座へと促した。同じタイトル獲得経験者でも現役が上座というルールに従ったまでだが、永瀬を心理戦であっさりかわしていた。

昨年、竜王を失い27年ぶりの無冠となった。今年の直近の目標として、最多勝利を挙げた。近い目標を定めて達成するのは得意。プロ棋士養成機関「奨励会」の受験にあたり、「小学生名人になる」という条件を小6で達成した。95年に果たせなかった7大タイトル全制覇も、保持する棋王・名人・棋聖・王位・王座・竜王を防衛した上、翌年2月に王将を奪って達成した。改元しても、大きな1ページを記した。

平成時代の始まりとともにパソコンを将棋の研究にいち早く導入した。盤上に駒を並べて研究する旧スタイルを合理化した。棋譜をパソコンで打ち込み、戦法別に分類して検索。勝負の分かれ目となる局面での新たな指し手を分析した。その研究手順を対局で披露し、改良し、白星を重ねた。

時代の移り変わりとともに防衛戦などで研究の時間が取れず、人工知能(AI)搭載ソフトを活用し始めた若手の最新将棋に立ち遅れていった。後輩にタイトルを奪われるケースも目立ち始めた。「過去にどんな実績があろうとも、負けることがあっても、やって行こうという気持ちが大事」。この意識が羽生を支える。

大山は80年の第29期王将戦に挑戦し、56歳11カ月でタイトルを奪った。以降、59歳0カ月まで2期王将を防衛した。90年2月の第15期棋王戦では66歳11カ月で挑戦という、最年長記録もある。

それに比べたら、羽生はまだ若い。棋士生活33年あまり、9×9=81マスに凝縮された将棋を「ますます奥深い」と語る。ずっと興味を持ち、盤上で表現することが原動力にしていく。【赤塚辰浩】