6日、第101回全国高校野球選手権(甲子園)が開幕する。07年の優勝校・佐賀北が5年ぶりに出場するのも話題だが、野球グラブの世界でも「がばい旋風」が起きようとしている。

先日、東京都内で行われたスポーツ関係用品の展示会「SIMEx2019」で出品されたのが、和牛の最高級ブランドの1つ「佐賀牛」の革を使った硬式野球用グラブ。サシこそ入ってはいないが、しっとりとした手触りと柔らかい感触で、関係者の間で好評だった。地元の佐賀・神埼市では「ふるさと納税返礼品」の候補に挙がっている。

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丸の内の高層ビルで行われた展示会。数種類の硬式野球用グラブが並べられた一角に、人だかりができていた。「Gabai leather」(がばいレザー)と刻印されたものを手に取ってみる。元高校球児でプロ野球の担当記者でもあった私は、グラブにはちょっと詳しい。見た目は何も変わらない。が、実際にはめてみると、手のひらに吸い付くような、しっとりした湿り気を感じ、革のしなやかさにうなった。

委託製作する株式会社ATOMS(奈良・桜井市)の岡田茂雄社長(55)は30年近く、グラブづくりに携わっている。

岡田社長 通常のグラブは北米や欧米の食用牛の皮をなめした革を使います。欧米の牛は脂が少なくて皮が厚い。佐賀牛はご存じのようにサシ(赤身肉の間に入った脂肪)が多く、皮は薄いけど繊維は強い。柔らかく、脂が入っているから長持ちするし、手にもなじみやすいんです。

通称「がばいグラブ」の発案者は、88年にドラフト1位で日本ハムに入団し、近鉄でも活躍した中島輝士さん(57)だ。昨年9月、旧知の岡田社長から「オリジナルグラブをつくってみないか」と言われ、故郷・佐賀のブランド牛を思い付いた。「日本の技術は世界一。世界一の革を使えば世界に誇れるグラブができる」。グラブの「THANK」というブランドも立ち上げた。

最初の壁は「色」だった。アブラが多いと着色しづらい。アブラを抜いて染めてみたら、色はきれいに出たのだが、「センベイみたい」(岡田社長)にカタ~い革になってしまった。その後、湯もみしたり、オイルや柔軟剤を使ったりして、ようやくグラブに適した革になったという。

次なる壁は「価格」と「供給先」。肉ほど高値ではないものの、北米産牛の革に比べ、和牛は2割ほど高い。供給ルートも複雑で、採算を考えるとマイナス面が大きかった。中島さんは故郷の人脈を駆使し、畜産業者から直接、なめし業者に卸すルートを開拓。コストダウンに成功した。

それでも「佐賀牛」1頭からできるグラブは6個程度で、海外産牛よりも少ない。価格は投、内外野手用が6万8000円、捕手、一塁手用が7万円(消費税別)と高めだ。中島さんは「良いグラブは一生もの。プロでも名手と言われる人は同じグラブを修理して使っている」とし、「野球界と故郷に恩返ししたい。ゆくゆくは台湾、韓国など世界にも進出できれば」と話した。【沢田啓太郎】

◆中島さんの生まれた神埼市では「がばいグラブ」をふるさと納税の返礼品に加える話が進んでいる。同市議会の田原(たばる)和幸市議(67)は「佐賀牛でグラブをつくると聞いた時は『えっ』と思いましたが、肉だけでなく、皮も世界一を目指すなんて夢がありますから」と後押しする考えだ。

◆中島輝士(なかしま・てるし)1962年(昭37)7月27日、佐賀県生まれ。柳川-プリンスホテル、88年ドラフト1位で日本ハム入団。96年近鉄移籍、98年現役引退。641試合453安打52本塁打。引退後古巣でコーチ、台湾・統一、四国IL徳島で監督。

◆「がばいグラブ」の詳細はTHANK(サンク)公式HP(https://thank-field.com)まで。