この夏、吉本興業、セブンペイ、かんぽ生命など、相次ぐ企業の謝罪会見が、さらなる批判を招く結果となっている。

失敗の原因と、絶対に押さえておくべき鉄則は何なのか。あらためて知りたい危機管理、謝罪会見の「お作法」を、企業広報・危機管理コンサルティング会社エイレックスの江良俊郎代表(56)に聞いた。【取材・構成=梅田恵子】

<すみやかな対応と積極的な情報開示>

危機管理で最も大事なポイントです。「静観」して何も対応しないと、マスコミがあちこち取材してどんどん情報が出てきてしまう。吉本興業も、宮迫博之さんがフライデーの直撃取材を受けた時点で、責任者が囲み取材でもいいから「徹底的に調査して公表する」と一報をメッセージするべきだった。積極的な情報開示も必須です。マスコミは隠されると追い掛ける習性があり、SNSでさまざまな人が情報を発信する時代。できるだけ隠そうという発想は、危機を拡大させるだけです。

<最初の情報はうそが多い>

どんな組織でも、当事者たちの保身によって、最初に上がってくる情報にはうそが多いもの。そこを踏まえてきちんと調査することが大事です。吉本の場合は、宮迫さんの「お金はもらっていない」を信じてそのまま発表してしまったのが最初の大失敗。三菱マテリアルのように、子会社の品質不正に関して「ない」としていた本社の関与が明らかになって社長が辞任に追い込まれた例もあります。うそを見抜く方法は主に2つ。長年の付き合いのある関係者が親身になって丁寧に聞いてあげるか、ヤメ検弁護士さんが捜査のプロの手法で吐かせるか。吉本の場合は前者の方が合っていたと思います。

<NGワード>

失敗例に多いのが「世間をお騒がせして」というNGワード。何が悪くて、誰に謝っているのか認識できていないんですね。あと、「法的責任はない」もNG。弁護士や法務部が前に出てくるとこういう答弁になりがちですが、謝罪会見で問われているのは、法的責任ではなく、会社の姿勢なのです。裁判も大事ですが、評判と評価はさらに大事。温泉施設シエスパの爆発事故の対応で評判を落とした運営会社のように、裁判で無罪判決が出た時には会社がもうない、というケースも多いのです。

<ソーシャルメディア時代の危機管理>

SNSで誰もが声を上げやすくなったことで危機が拡大するのも今の時代の特徴。最近では、カネカ社員の奥さんが「育休明けの夫に転勤命令」という怒りをツイッターに投稿した例。カネカの企業体質に批判が集中し、あわてた会社が「対応は適切だった」といかにも弁護士的なコメントを出してさらに炎上しました。東レのデータ改ざん事件では、役員会で公表しないことが決まったことを知った誰かが掲示板に「東レで隠蔽」と書き込み、最終的に会社が謝罪会見に追い込まれた。ネットがない時代には表にならなかったことから雪崩を打つ、新しい危機への対応も必要です。

 

◇江良氏が、会見の成功例として挙げているのが、昨年、日大アメフト部の危険タックル問題で謝罪した宮川泰介選手だ。江良氏は「『コーチや監督に指示されたのだとしても、やってしまったのは自分。僕の責任』という反省が終始一貫していた」。アメフトをやめるという決断も多くの人の心を揺さぶった。「その人の本質をえぐり出されるのが謝罪会見。あの会見ができたのは、彼の人柄そのものです」。

宮迫と田村亮の会見も「一発逆転で態勢をひっくり返した」という点では成功例という。「亮さんが金髪のままだったことを批判する声もありますが、謝罪の本質とは関係ない。僕はあれでいいと思う」。黒染めで登場しても「黒の方がいいかなって」と軽さで批判を集めたAAAリーダー、浦田直也のような本末転倒では意味がないとする。

さらに、「吉本とは対照的な危機管理力」と評価するのが、ザブングルが所属するワタナベエンターテインメントだ。反省、原因、ギャラの金額と修正申告、謹慎期間中の社会貢献の約束、8月末までという具体的な謹慎期間の明記、無再発防止策など「ポイントを突いた説明で、ごまかす印象がない。実際、ザブングルは叩かれていないし、ワタナベエンタも企業として高く評価された。騒ぎを大きくしないという危機管理の手本です」。