企画展「表現の不自由展・その後」の展示が一時中止された「あいちトリエンナーレ2019」に対し、文化庁が補助金の全額不交付を決めたことに抗議する署名活動を行った参加アーティスト有志が8日、集めた10万筆の署名を文化庁に提出しに向かったが、取りやめた。

参加アーティストが協働するプロジェクト「ReFreedom_Aichi」のメンバーらが同日、文科省で会見を開き、署名提出を取りやめた理由は、文化庁の宮田亮平長官に直接、手渡し話をする機会を作って欲しいと依頼を続けたがかなわず、その不誠実で敬意を欠いた対応への抗議だと明らかにした。

署名は補助金の不交付が決まった9月26日から集め始め、すぐに2万筆集まり、今月5日までに10万筆以上の署名が集まったという。関係者によると、9月末の段階で文化庁に対し、10月中旬に宮田長官に署名を直接、手渡したいので日程調整を依頼したところ、あいちトリエンナーレ最終日の同14日近くになって、ようやく対応すると返事が来たという。ただ、宮田長官は忙しいので対応できないので、文化庁の担当部署の職員が2階の玄関前で受け取る上、コメントを出すことも出来ないと返答が来たという。

「ReFreedom_Aichi」のメンバー小泉明郎氏は「10万筆集まった署名には、国民の思いが詰まっているし(提出する)我々はその責任を負っていると感じた。宮田長官にお渡ししたい、機会をつくって欲しいとお願いしたが、文化庁の対応が非常に不誠実」と憤った。同氏によると、会議室もリクエストしたが、文化庁が会議室を出してきたのは署名提出前日の7日夜で、用意された部屋も「非常に狭い、通路のような会議室」だったという。小泉氏は「責任を果たすには全く、ふさわしくない場所だったので提出しなかった。またしかるべき場所で宮田長官に直接、お話ししながらお願いしたい。その場を作っていきたいと考えています」と語った。

この日は、個々で抗議活動をしていた他の組織や個人が一緒に活動していくための集会も開かれ、会見では各人から、表現の自由の制限が高まる一方の、今の日本への懸念の声が相次いだ。「あいちトリエンナーレ2019」の補助金採択についての審査委員会で委員を務め、不交付決定後に辞任した野田邦弘鳥取大教授は「後出しじゃんけんで(補助金は)なしと言われた。手続きもひどい。後出しじゃんけんなら委員会はいらない」と批判した。

「ReFreedom_Aichi」のメンバー藤井光氏は「『あいちトリエンナーレ2019』以降、何が変わったか…権力を持つ政治家が作品を沈黙させ、排除すると公になって言えること。作品を見る前に判断を下し、黙らされる現実に置かれている」と言い、首をかしげた。

美術評論家連盟(AICA)で常任委員を務める林道郎上智大教授は「AICAでは、いろいろなケースに関して声明を出しているが、15年あたりから表現の自由を巡る問題が増えてきた。現政権になって事態が悪くなり、日本の社会自体、表現の寛容性が低くなっている」と主張。その上で「『あいちトリエンナーレ2019』の事件は単発的に起こった事じゃなく、過去5~6年、10年悪くなってきた日本の状況を表している」と、表現の自由の制約が高まっている、日本の現状を憂えた。【村上幸将】