東京都練馬区の自宅で長男の熊沢英一郎さん（44）を刺殺したとして、殺人罪に問われた元農林水産事務次官熊沢英昭被告（76）の裁判員裁判が13日、東京地裁で開かれ、検察側は懲役8年を求刑した。

検察側は論告で「傷は首や胸に集中しており、36カ所以上もあった。強い殺意を持って被害者を殺害したこと、不意を突いて一方的な攻撃を加えたことは明らかだ」と犯行の悪質性を主張。さらに「被告は農水省事務次官という事務方トップや大使まで務めた人物」とキャリアに触れた上で「警察などの行政機関も家庭内暴力について対処していることなど認識していたはずだが、相談しなかった。酌量の余地は乏しい」などと指摘した。

一方で「被害者の将来を心配して面倒をみていた。自首も成立する」などと考慮すべき点も挙げた。「大きく考慮すべき点がなければ、懲役10年を下回らないのが通例」と説明した上で、懲役8年を求刑した。

弁護側は執行猶予付き判決を求めた。被告について「妻がうつ病をわずらったり、愛娘が自殺する中でも、長男を支えてきた。時に厳しい言葉を投げかけながらも、献身的なサポートを続けた」と指摘。また、被告の知人らから、1609通の嘆願書が寄せられたことも明かした。「経緯や動機から、酌量の余地は大きい。これまでの人生、事件への真摯（しんし）な反省を勘案して、執行猶予付き判決が妥当」と主張した。

被告は時々、ギュッと目をつぶりながら、論告を聞き入っていた。最後に「犯した罪の重大さを十分、自覚しております」とした上で「この罪を償うことが大きな務めと考えている」と淡々と話した。

この日結審し、判決は16日に言い渡される。

起訴状によると、今年6月1日午後3時15分ごろ、自宅で長男英一郎さんの首などを包丁で多数回突き刺し、失血死させたとしている。